研究課題/領域番号 |
19K06020
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
片岡 圭子 愛媛大学, 農学研究科, 教授 (80204816)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | トマト / 果実肥大 / 低温 / 果皮 / 糖代謝酵素活性 / エチレン |
研究実績の概要 |
1.果実肥大の進行に伴う果皮硬度および糖代謝酵素活性の推移とエチレン処理の影響 ‘Micro Tom’を供試し,早期(着果後14,または着果後18日),中期(21,または25日),後期(32日)にエチレン処理を行った.処理後3日目の果実肥大速度が小さくなる傾向は早期区で認められたが,1週間後には回復した.処理3日後に3×10mmの果皮について引張試験を行い,果皮硬度(Young module),破断時応力,歪率を求めたところ,成熟に伴って果皮の硬化が起きることが示されたが,処理後すぐにエチレンによって果皮硬化が引き起こされることはなかった.エチレン処理によりクチクラ層が薄くなる傾向が見られた. 2.低温管理の影響 着果後17日目から低温(20/8℃)および高温(32/14℃)のインキュベーター内で栽培した.低温区で果実肥大速度は当初小さくなったが4週間目の果実は高温区と同程度まで大きくなった.果実の乾物率に有意差はなかった.果皮は低温処理によって厚くなった.引張試験の結果,高温区では3週間目以降,果皮硬度が急激に増加し,破断時応力の低下,歪率の低下がみられたが,低温区では果皮硬度,破断時応力,歪率とともに4週間目まで変化は小さかった.糖代謝酵素活性は低温区で低くなる傾向が認められた. 3.塩ストレスの影響 早期(着果後14日目)または中期(21日目)から底面給水法により塩処理(50 mM)を開始した.処理開始1週間で果実肥大は抑制された.果皮硬度の上昇が認められたのは早期区で処理後2週間,中期区で処理後1週間であり,塩処理により成熟が早まったためと考えられ,果実肥大速度の抑制が果皮硬度の上昇によるとは考えにくかった.乾物率は塩処理により増加し,果実肥大抑制が水分流入の制限によることが示唆された.糖代謝酵素活性は,SUS,NI活性が塩処理区で低くなる傾向が認められた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
果皮硬度を引張試験で評価する方法を確立したことにより,果実の成熟に伴って急激に果皮硬度が高くなり,同時に歪率が低下することが観察された. 低温処理により果皮硬化が遅くなることが果実生育後期の果実肥大期間の延長を引き起こす可能性が示唆された.果皮の引張試験により早期エスレル処理,塩処理による果実肥大抑制に果皮硬度の変化が関係する可能性はほぼ否定された. エスレル処理直後の果実肥大速度低下は,早期果実でのみ認められることを確認した.塩ストレス負荷栽培装置が使用できるようになり,塩処理による果実肥大抑制は水分流入量の減少によるものであることが明らかになり,温度処理における高温条件との共通点はないことが示唆された. 果実肥大制御の異なる様相が明らかになったことから概ね順調と考えている.
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今後の研究の推進方策 |
低温処理による果実肥大継続について,温度処理期間をさらに長く設定し,高温区の着色開始時およびその後に両区の乾物率,糖代謝酵素,果皮の物理特性を比較する.これによって低温で延長された肥大期間における水と光合成産物の流入の様相について明らかになる.また,低温処理により,果皮硬度低下が示唆されたので低温下でのPOX活性について確認すると同時に,組織学的観察によって外果皮細胞構造やクチクラの構造・厚みなどについて検討する.果実肥大初期に1週間温度処理を行い,シンク活性を変え,着色まで日数,乾物増加,着色後の果実肥大,果皮硬度変化について検討する. エスレル処理による果実肥大速度抑制は果実の若い時期に限られていた.エスレルによる若い時期の果実肥大抑制については,これまで糖代謝酵素活性への影響は検出できておらず,果皮の物理的特性についても大きな違いがないことから,再確認して機作についての手がかりを探す.しかし,低温処理による成熟遅延現象の概略が見えてきたので,それと比較する目的でより遅い時期の処理により着色まで日数を短縮し,着色開始後,過熟期までの果実肥大速度,果皮硬度,乾物増加,水流入の変化を明らかにする.さらに低温処理とエスレル処理を組み合わせた場合の肥大について検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度の次年度繰り越し分があったが,今年度は新型コロナ感染対策のために当初予定していた実験のいくつかが実施できず,学会への参加旅費も不要になったため,ほぼ昨年度の繰り越し分が使用できなかった.最終年度は,酵素の活性について再確認するために実験の繰り返しが必要であり,試薬,栽培経費に40万程度,これまでの結果をとりまとめての学術雑誌投稿に伴う英文校閲と投稿料として18万円程度の支出を計画している.
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