研究課題/領域番号 |
19K06022
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
立石 亮 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (30267041)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | α-アラビノフラノシダーゼ / トマト / 硬度 / 食感 / 低温 |
研究実績の概要 |
海外においてトマトは長距離輸送が行われることが多く、輸送中のクラッキングがしばしば問題となる。そのため、果実(果肉)の硬さが重要な形質であり、長年にわたって軟化原因酵素の探求が行われ、近年、主要因となる酵素が同定された。一方で、青果物の品質、特に内的品質を決定する別の指標として、甘味、酸味、旨味、風味、食感などがある。野菜の嗜好性のうち、歯ごたえや舌触りなどの食感は最も重要とされているが、その形成機構については明らかにされていない。果実の軟化や食感の変化は、トマトの場合、構造多糖類の変化によって形成される。構造多糖である細胞壁多糖類は多様な糖がさまざまに結合した複雑な構造を示す。その中で、アラビノースは主にペクチンやヘミセルロースを構成する中性糖で、既知の報告から細胞間接着に重要な役割を果たしていることが示唆されている。数品種のトマト果実を用いて、アラビノースの遊離に作用すると考えられるα-アラビノフラノシダーゼの遺伝子発現解析を行ったところ、果肉からの水分の放出量の品種間差異と関連を示す3つのアイソザイムが見いだされた。また、同一の品種でも、果実を低温下で貯蔵し、低温障害を誘導させると、果肉組織からの水分放出量が減少し、異常食感を形成することが示された。異常食感を形成したトマトでは、実際に、α-アラビノフラノシダーゼ活性の上昇がみられた。グリコシドハイドロラーゼ(GH)3に属する本酵素の一部は、同時にβ-キシロシダーゼ活性を有することが報告されており、同様に本酵素活性を調べたところ、その上昇も確認された。さらに、GH3に属する同酵素遺伝子のうち、2つのアイソザイムの発現が異常食感を示した果実で上昇していた。以上の結果から、果肉からの水分の放出量の差異すなわち食感の違いといくつかのα-アラビノフラノシダーゼ遺伝子の発現に関係性がみられ、食感形成への関与が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画に基づいて、食感形成に直接作用する細胞壁代謝酵素としてα-アラビノフラノシダーゼに着目し、その発現動態について異常食感を形成させたトマトにおいて解析を行う予定でいた。研究実績の概要に記述したように、発現解析を組み入れることで関連するアイソザイムの絞り込みに成功するなど、十分な成果が得られており、当初の計画以上に順調に進展している。しかしながら、食感の評価について新たな手法を開発する部分と、低温追熟時の果肉組織の多糖類の動態を調べることについては、新型コロナウイルスの感染拡大や緊急事態宣言の発令によって、材料の準備期間における行動自粛、さらには、研究時間が大幅に減少し実施できていない。その一方で、これまでに得られた研究成果については前倒しで論文発表を行うことができたため、全体としてはやや遅れているとした。
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今後の研究の推進方策 |
果実からの水分放出量を指標とした食感の差異について、果汁放出量以外にもいくつかの方法を組み合わせて評価する予定である。前年度に計画していたように、細胞間接着については、果肉ディスクを作製し、それを溶液中で振とうし、その崩壊度から評価することを試みる。また、この際の果実硬度の変化もモニターし、硬さと食感の関係について考察する。さらに抗多糖類抗体を用いて、果肉細胞の細胞壁のアラビナンを検出し、その動態を組織化学的に調べ、果肉で生じているアラビノース含有多糖類の変化を可視化する。また、α-アラビノフラノシダーゼは、しばしば酵素学的性質が明らかにされていないことが多く、今回の研究成果でも基質に対して二機能性をもつ可能性が示唆されている。そこで、リコンビナントタンパク質を用いて、in vitroにおける多糖類分解に対する生化学的特徴づけを行う必要がある。したがって、異種細胞系におけるタンパク質誘導を試みる予定である
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大や緊急事態宣言の発令によって、外出の自粛や在宅勤務が増加した。この時期に実験材料を準備することが困難となり、その後の実験実施に影響が出た。また、上記に加えて、オンデマンド授業のための教材作成が、新規の業務として発生し、十分なエフォートを研究に投入することが困難であったこと、また、旅費についても、研究発表がオンラインで行われたため、予算額よりも支出が減少し、想定以上の次年度使用額が生じた。一方で、感染拡大状況の中でのウィズコロナにおける研究体制が構築されてきたことから、次年度の研究は十分に実施できると考えている。研究のスピードアップを予定しており、研究予定であった食感評価の客観的手法の検討および抗多糖類抗体を用いての異常食感発生時の多糖類の動態を調べるための経費として使用し、研究を遂行する予定である。
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