収穫後の輸送性や日持ち性の向上という観点からこれまでの研究では果実軟化の原因について着目され、果実細胞壁多糖類の構成や構造の変化、さらにその変化に関与する酵素について調べられてきた。一方、細胞壁の構造変化は、軟化とともに生じる特有の食感形成も関わっている。歯ごたえや舌触りなどの食感は、青果物の内的品質である甘味、酸味、旨味、風味とならび重要な要素として捉えられているが、その形成機構については明らかにされていない。本研究では、食感を客観的に評価する方法について検討するとともに、細胞壁多糖類構成成分の変化に関わるグリコシダーゼ類と食感形成の関係について検討した。果実が硬く、また、ボソボソとした粉質の食感を示す加工用トマトと、ジューシーな食感で軟らかな生食用トマト数品種を用いて、食感の客観的評価方法を検討した。粉質を果肉からの水分放出量で評価可能だったのは一部の品種のみであった。最終的に、粉質は果肉に含まれる水分量や水分放出量に依存しているのではなく、果肉組織の壊れやすさが影響していることが示唆された。果肉ディスクを作成し、等張液中で振とうした際の崩壊度を調べる方法が、粉質を評価するのに適していることが明らかとなった。また、低温障害の回避にしばしば用いられる追熟前の熱処理は、トマト果実の異常食感形成の回避方法としては有効ではなかった。細胞壁多糖類を構成するアラビノースは細胞間接着に関わる可能性が示されているため、数品種のトマト果実を用いてアラビノースの遊離に作用すると考えられるα-アラビノフラノシダーゼの遺伝子発現解析を行った。その結果、果肉からの水分の放出量の品種間差異と関連を示す3つのアイソザイムが見いだされた。さらに、低温による異常食感(粉質)が形成されたトマトでもα-アラビノフラノシダーゼ活性の上昇がみられ、これは2つのアイソザイムの発現で説明された。
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