研究課題/領域番号 |
19K06031
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
松本 省吾 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (90241489)
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研究分担者 |
太田垣 駿吾 名古屋大学, 生命農学研究科, 講師 (50597789)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 園芸学 / 野菜 / イチゴ / 生殖成長 / 栄養成長 / 促成栽培 |
研究実績の概要 |
まず、栽培イチゴ‘紅ほっぺ’と‘章姫’のクラウン茎頂部位における花芽分化誘導(促進)遺伝子FaFT3、抑制遺伝子FaTFL1の発現レベルや茎頂部位の形態を指標として、苗毎の花芽分化状態を特定した。次に、花芽分化前(ステージ0)、分化直後(ステージA)、分化後期(ステージB)に該当する株のそれぞれにおける新たに展開した葉で発現する遺伝子群をRNA-seqにより網羅的に解析した。‘紅ほっぺ’と‘章姫’に共通して花芽分化前(ステージ0)から直後(ステージA)にかけて発現上昇していた481遺伝子から、花芽分化後のステージBに発現低下する遺伝子を除くなどの絞り込みを行い、ステージ0に対しA、Bで高発現する遺伝子を抽出した。最終的に、ステージ0からステージA にかけて発現変動の最も高い4遺伝子について、花芽分化時を特定できる候補遺伝子(バイオマーカー1,2,3,4)とした。RNA-seq解析からは、いずれも花芽分化後のステージにおいて花芽分化前より高発現しており、特にバイオマーカー2はすべてのサンプルで安定的に高発現していた。また、上記と異なるサンプルについてバイオマーカーの発現解析を行なったところ、1から4のいずれも間欠冷蔵処理苗特異的に高発現しており、バイオマーカーの有用性が示された。 栽培イチゴ‘紅ほっぺ’の花芽分化誘導処理(間欠冷蔵処理)前のクラウン部位に低温プラズマを3回もしくは6回経時的に照射したところ、3回処理で、6回処理や無処理に比べ、花芽分化誘導(促進)遺伝子FaFT3の発現上昇が認められた。3回処理では、花器官形成遺伝子であるFaAP1の発現上昇も、個体間にばらつきは見られたが確認された。ただし、間欠冷蔵処理個体よりは低いレベルであった。また、3回処理では間欠冷蔵処理と同じ時期に果実収穫のピークが見られ、無処理や6回処理より収穫時期が早まることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、クラウン茎頂部位の花芽未分化状態(ステージ0)、花芽分化初期状態(ステージA)、花芽分化後期状態(ステージB)を確認した苗の葉を用いたRNA-seq.によるトランスクリプトーム解析から有用なデータが得られた。すなわち、花芽分化時特異的に葉で発現上昇し、その分化後期まで発現レベルが維持される4種類のバイオマーカー候補を同定した。それぞれ、バイオマーカー1は、鉄欠乏に応答して発現上昇するシロイヌナズナのグルタチオン還元酵素遺伝子ROXY10ホモログ、バイオマーカー2は、葉緑体のストロマに局在するシロイヌナズナのシャペロンDJC23(At J11)ホモログ、バイオマーカー3は、シロイヌナズナのアスパラギン合成遺伝子ANS1ホモログ、バイオマーカー4は不明であった。いずれも花芽分化との関連性については今のところ不明であるが、全てイチゴ花芽分化の指標となる可能性があることから、促成栽培時の苗の定植時期を特定する上で有用であると考えられる。また、3回の経時的な低温プラズマ処理により花芽分化時期、収穫期を早められる可能性が示唆された。一方で、6回の新たな経時的な低温プラズマ処理ではこのような効果は認められなかったことから、今後、さらにプラズマ処理条件、方法の検討ならびに改良を加えることで、新たな促成栽培技術確立につながる可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
栽培イチゴ花芽分化の分子機構について、普遍的な花芽分化誘導(促進)因子FaFT3、花芽分化抑制因子FaTFL1-1の構造機能解析結果を中心にまとめる。また、クラウン茎頂部を用いて実施したRNA-seq.解析による栄養・生殖成長転換期に発現変動する遺伝子群の網羅的解析結果についてもまとめ、最終的に栄養・生殖成長転換の分子機構についてまとめる。以上の基礎研究に加え、葉を用いて実施した花芽分化誘導、すなわち栄養・生殖成長転換期にクラウン茎頂部と連動して発現変動する遺伝子群のRNA-seq.解析結果を基に、葉組織の花芽分化への関わりについてもまとめる。また、応用研究として実施した葉組織での花芽分化特異的に発現変動する遺伝子を指標とした超促成栽培への応用ならびに低温プラズマ処理の超促成栽培への応用の可能性についてもまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)コロナ下での様々な対応に時間を要し、本年度で終了するのが困難と判断した。具体的には、これまでに得られた実験結果の一部について、異なるサンプルを用いた解析による最終的な再現性確認ならびに実験データの再解析を翌年度に実施する。 (使用計画)次年度に上記理由に記載した実験内容を実施し、経費を使用する予定である。
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