本研究は、ニホンナシ発芽不良発生における概念リズムの有する役割の解明と、リズム同期による被害軽減策の検討を目的としている。本年度は、前年度までに確認できた、休眠導入期のABA処理による発芽不良発生軽減効果の年次変動の確認のため、発芽不良発生園(2園地)のナシ「幸水」樹に対し再度ABA処理を行い(11月6日)、翌春の開花を確認するとともに、概日リズムの制御や休眠・開花に関する遺伝子の発現、樹体内炭水化物含量および窒素含量を解析することによりABAによる開花制御メカニズムを解析した。 その結果、本年度はABA処理によりA園では開花の早期化、および開花率の向上、および1花芽当たりの開花小花数の増加が認められた。一方、B園ではABA処理による開花の促進効果は認められなかった。また2園地いずれにおいても、枝における全糖含量、デンプン含量および窒素含量に処理区間の有意差は認められなかった。一方、12月6日および1月16日に枝を採取し、花芽の耐凍性を比較したところ、いずれの園地においてもABA処理による開花処理により12月6日時点ではABA処理により耐凍性(LT50℃)が2℃程度低下しており、耐凍性の向上が確認できた。ただし1月のサンプルでは差が認められなかった。 さらに、腋花芽における開花・休眠関係遺伝子の発現解析で両園で共通して確認された特徴は、ABA散布による開花関連のFLC-like2の12月下旬~1月下旬にかけての増加であった。昨年度認められた開花関連のFT1aとFLC-like1、および耐乾性関連のDehydrinの12月中旬頃の増加は顕著ではなかった。また昨年と同様、休眠関連遺伝子であるDAM遺伝子には一定の傾向は認められなかった。2年間の処理を通じ、ABA処理には発芽不良を改善する効果があること、またそれは耐凍性の増加と花芽発育の促進によるものと考えられた。
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