研究課題/領域番号 |
19K06045
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
石賀 康博 筑波大学, 生命環境系, 助教 (50730256)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アブラナ科植物黒斑細菌病 / キャベツ / 病原力因子 |
研究実績の概要 |
アブラナ科植物黒斑細菌病菌(Pseudomonas cannabina pv. alisalensis)はキャベツ、ダイコン、ハクサイだけでなく、緑肥植物として栽培される単子葉植物のエンバクにも感染するため、黒斑細菌病の大発生が栽培地では問題になっている。一般的な植物病原細菌は特定の宿主植物のみを発病させる。P. cannabina pv. alisalensis (Pcal)は広く双子葉および単子葉植物を発病させるが、本菌の病原性機構は不明である。本研究では、Pcalの病原力因子を同定し、病原性機構の解明を目指す。具体的には、(1)Pcalの変異体ライブラリーからの病原力低下株の選抜、(2)病原力関連遺伝子の網羅的同定、(3)病原力因子の機能を明らかにすることにより、Pcalの病原性機構の全体像を明らかにする。 今年度は、長野県で分離された強病原力株Pcal KB211のトランスポゾン挿入変異株の作製を行った。そして、1,040変異株の菌懸濁液をキャベツに浸漬接種し、病原力低下株の選抜を行うことにより病原力因子の網羅的把握を試みた。その結果、発病に特異的な病原力因子であるⅢ型分泌機構や毒素に加え、細菌の生存生育に必須と考えられる基礎的な病原力因子であるアミノ酸代謝、運動能、多剤排出ポンプ、ストレス耐性等に関わる因子が病原力に大きく寄与していることを明らかにしたさらに、53の病原力低下株において、菌懸濁液を直接植物体内に打ち込むシリンジ接種、及びエンバクに対する浸漬接種を行った。そこ結果、Pcal の病原力因子の多くが、植物体への侵入過程に必要であることを明らかにした。また、キャベツに対する感染に必要な病原力因子のうち、エンバクへの感染においても必要な共通病原力因子とキャベツ特有の病原力因子が存在することを、エンバクに対する接種を同時に行うことで明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、トランスポゾンを導入した変異株を約5,000株準備する予定であったが、1,040変異株でスクリーニングを終え、単離されたそれぞれの病原力因子(遺伝子)の機能解析を行うことにした。その理由は、1,040変異株のスクリーニングにより重複して病原力因子が単離されたこと、ゲノムサイズから推定して約30%のゲノム領域をカバーできていることである。さらに、研究計画に沿って2~3年目までに研究を進めるためには、1,040変異株のスクリーニングから得られた53の病原力遺伝子の機能解析を進めることが不可欠であると考えた。53の病原力遺伝子の中から、複数の候補遺伝子を選抜し、研究計画に沿った機能解析を実施している。これまでの研究成果は、原著論文1報、国際学会発表1報、国内学会発表3報として発表していることから、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、Pcalの感染には、特異的病原力因子に加え、アミノ酸代謝をはじめとする基礎的病原力因子が必要であることが明らかとなった。アミノ酸代謝に関わる因子は、P. syringae pv. syringae B728aの病原力因子としても同様に同定されている。そのため、Pcalの感染機構の本質に迫るためには、基礎的病原力因子の詳細な機能解析が不可欠であると考えた。そこで、今後の研究では、同定した病原力因子を主体に、それらの因子と植物抵抗性の相互作用の解明を行う。具体的に機能解析を実施する病原力因子は、基礎的病原力因子であるアミノ酸代謝関連因子、特異的病原力因子である毒素コロナチン、それらを制御する転写因子の3つである。コロナチンは気孔防御を阻害し、細菌の植物体への侵入を可能にする。コロナチンの侵入抵抗性への寄与に加え、侵入後抵抗性への影響の検証も行う。具体的には、研究計画に沿って、生株と病原力低下株の感染挙動をライブイメージにより比較することにより、それぞれの病原力遺伝子変異株が、付着、侵入、攻撃、増殖と続く感染過程において、どの場面で感染力が低下するのかを明らかにする。さらに、病原力遺伝子のプロモーターレポーター株の解析により、それぞれの病原力遺伝子の発現のタイミングを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
発表を予定していた学会が中止になり、その費用を年度末に使用することができなかったため。
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