タバコの代表的なウイルス抵抗性遺伝子Nの遺伝子産物は,タバコモザイクウイルス因子(エリシター)を認識して過敏感反応と呼ばれる細胞死をともなう抵抗反応を誘導する.この反応が誘導される際には,N遺伝子の転写物量が著しく増加するという特徴があるが、その遺伝子発現メカニズムや生物学的・植物病理学的意義は十分に解明されていない.本研究では,エリシターに応答したN遺伝子発現および効率的な抵抗性誘導におけるイントロン配列に注目する.一過的遺伝子発現系および遺伝子組換え植物の実験系を組み合わせて,イントロンの機能という新しい観点からウイルス抵抗性誘導におけるエリシター応答性の分子メカニズムの解明を目指す.令和3年度では,(1) N遺伝子プロモーターの下流にイントロン1、イントロン2あるいは両方を含むN配列を連結した発現プラスミドを用いてエリシター発現下における転写物量および細胞死誘導の違いを比較した結果,イントロン1と2のいずれかあるいは両方があると,エリシター存在下で転写物が増加し,効率良く細胞死が誘導されることが示された.また,(2) イントロン1あるいはイントロン1と2を含むN遺伝子を発現するタバコあるいはすべてのイントロンを含むN遺伝子を発現するニコチアナベンサミアーナの形質転換体を作出した.さらに(3) 35Sプロモーターの下流に連結したGFP遺伝子内にイントロン1とイントロン2の一方あるいは両方のイントロンを挿入したコンストラクトに作製し、それらのGFP発現量を調べた.その結果,イントロンの挿入によってGFP発現量が増大しないこと,挿入位置によってはむしろ発現量が減少することが分かった.これらの結果から,N遺伝子のイントロン1や2は両方が協同的に作用することで遺伝子発現量を増大させるが、その作用はN配列特異的であることが示唆された.
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