研究課題/領域番号 |
19K06048
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
小松 健 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (60451837)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 植物RNAウイルス / 遺伝的多様性 |
研究実績の概要 |
オオバコモザイクウイルス(PlAMV)感染個体が多数見られる青森県の地域より既に採取済み、あるいは新たに採取した野草から、ELISA法(Agdia社)によりPlAMV感染している個体を複数同定した。Chenopodium quinoaで単病斑分離を行ったのち、RNA抽出、RT-PCRにより全ゲノム配列領域を増幅し配列を決定した。本年度は、これら新規PlAMV6分離株を含め、全ゲノム配列が決定されているPlAMV27分離株の全長塩基配列を用いて系統学的解析と遺伝的多様性の算出を行った。 RDP4ソフトウェアを用いた組換え解析では、全ての分離株の組み合わせで有意な組換えは検出されなかった。近隣結合法および最尤法により全長塩基配列の系統樹を作成した結果、2種類の手法で作成した系統樹はほぼ同一の樹形を示し、高いbootstrap値によって支持される5つのクレード(Lily clade, Clade I-Ⅳ)が形成された。Lily cladeには世界各地で鑑賞ユリに壊そ病を引き起こす分離株のみが含まれた。CladeⅠ, Ⅲには、青森県で近隣地域から見出されている分離株が属しており、両クレードで地域が共通していた。他のクレードの分離株の宿主と地域から総合すると、野草株はある程度宿主や地域に対応して分化していることが示唆された。さらに、遺伝的多様性を算出すると、CladeⅠ~Ⅳそれぞれのπは0.089~0.189であり、PlAMV全分離株での値に近かったが、Lily cladeにおいてはπ=0.040という低い値であった。以上の結果は、鑑賞ユリ株集団は遺伝的多様性が低く、これと比較するとその他の野草株集団は遺伝的多様性が高いという、系統解析に準ずる結果を示していた。また、それぞれの新規分離株は感染性cDNAクローンを作出し、その感染性をモデル植物で確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ここまでの研究で、研究計画どおりに複数の野草からPlAMVの新規分離株を単離、全ゲノム配列を決定することができた。組換え解析と系統解析を既知のPlAMV全長配列と合わせて行い、PlAMVが大きく5つのクレードに別れること、野草分離株がある程度宿主や地域に対応して分化していること、を明らかにできたのは大きな進展と言える。また、それぞれの新規分離株の感染性cDNAクローンを作出し、その感染性をモデル植物で確認できたうえに、GFP発現ベクターの構築も順調に進展している。ユリおよびオオバコへの接種試験にも着手しており、それぞれのウイルス分離株の検出系も確立したことから、来期以降の研究計画をスムーズに進めることができると考えられる。以上より、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は申請書の計画どおりに研究を推進する。引き続き新規PlAMV分離株の単離とシーケンス解析を進めるが、本年度は採集活動および実験室での分子生物学的実験が困難になると考えられるため、主に集団遺伝学的解析・適応進化解析などのバイオインフォマティクス的解析を先行して進める。特に、クレード間の相対的な分化の程度をFst値により、アミノ酸座位ごとの適応進化をdN/dS値により解析し、クレード分化および宿主適応に関わるゲノム領域の候補を見出したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19により学会の開催が中止となり(発表は認められている)、その分の旅費が使われずに残ったため。次年度の学会参加費およびシーケンス解析に用いる予定。
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