本研究においては.イネやネギの重要病原であるPantoea ananatis細菌について病原性決定因子の保有率を調べ,病原株と非病原株の分布の違いなどの生態学的な情報を収集し,防除に寄与する知見を得ることを目的としている. 3年目の2021年度は,昨年および一昨年に引き続き静岡大学の近隣および大学フィールドセンターなどからサンプルを集めて細菌の分離と病原性遺伝子の有無の判定,タバコとタマネギへの接種による病原性の判定を実施した.供試植物としては,イネ(内穎褐変籾),コムギ(赤かび病罹病穂),ニラ(さび病病斑),ネギ(さび病病斑)を用い,供試昆虫としてはヒラズハナアザミウマ,ミカンキイロアザミウマ,ミナミアオカメムシ,チャバネアオカメムシ,クサギカメムシを用いた.全部で63点のサンプルのうち29点のサンプルから223株のP. ananatisが分離された.その中で病原性決定遺伝子領域であるPASVILを保有する菌株は61株(27.4%)であった.PASVILの保有とタバコ・タマネギへの病原性は一致していた.保有率はイネ分離株では25/25株(100%)と高率であった.コムギおよびニラ分離株では5/100株(5%),5/21株(23.8%)であった.今回ネギからは0/45株(0%)と分離されなかった.昆虫からはミナミアオカメムシで26/26株(100%)と高率に分離され,チャバネアオカメムシからは0/6株(0%)であり,それ以外のサンプルからはP. ananatis自体が分離されなかった.昨年までの結果と同様,イネ以外の植物からの分離はバラツキが大きいことがわかった.一方で昨年に引き続きミナミアオカメムシから高頻度で分離されたことからカメムシとイネ病害との関連性が強く示唆された.
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