研究課題/領域番号 |
19K06051
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中川 好秋 京都大学, 農学研究科, 准教授 (80155689)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ponasterone / 20-hydroxyecdysone / ecdysone receptor / dacryhainansterone / ecdysone / ajugasterone / steroid |
研究実績の概要 |
ほとんどの昆虫は、脱皮ホルモンとして20-hydroxyecdysone (20E)を利用している。20Eは、ステロール骨格(A/B/C/D)のD環の17位にヒドロキシアルキル側鎖をもったステロイ化合物である.前胸腺においてコレステロールや植物ステロイド化合物から20位にOHを持たないecdysone (E)が生合成され、前胸腺から分泌された後に20Eへと活性化される。Eの活性は20Eの1/100程度であるが,20Eの側鎖末端の25位のOH基がない化合物であるponasterone A (PonA)は20Eよりも20-30倍高い活性を持っている.これまでに様々なステロイド化合物が動植物や微生物から単離構造決定されている。本研究では脱皮ホルモンの受容体(Ecdysone receptor; EcR)とリガンドの結合様式を詳細に検討することを目的として、様々なステロイドホルモンのEcRに対する結合活性を評価した。その中で、14-deoxy-20E, dacrylhainansteron, 14-deoxydacryhainansteroneの3化合物は20Eよりも顕著に高い活性を示した。20Eの14位の水酸基がなくなると、活性が2倍以上高くなることがわかった。Acryhainansteroneのヒドロキシアルキル側鎖構造はPonasteroneのそれと同じで、ステロール骨格のC環にはB環の2重結合と共役した2重結合を持った化合物である。20Eと同じように、dacrylhainansteronでも14位のOHが無くなると活性が約2倍上昇した。さらに、PonasteroneのC環にOH基を持ったAdugasterone Cや、C22のOH基が=Oに変わった化合物は、高い活性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
天然型の脱皮ホルモンである20-hydroxyecdysone (ステロイド化合物)の受容体結合部位に結合可能な非ステロイド化合物を探索することを目的とした研究である.以前に、研究者らのグループは,LigandScoutというバーチャルスクリーングのソフトウエアを用いて、植物ステロイドホルモンであるブラシノステロイド様活性化合物を発見し、特許出願を行った。この方法は、リガンド-受容体の立体構造から自動的に作成されるファーマコフォアをもとにスクリーニングする手法であるが、デフォルトのファーマコフォアでは、天然型のリガンド分子以外はヒットせず、修正(緩和)が必要であった。そのために、構造活性相関の情報を用いてファーマコフォアを少し修正しスクリーニングすることによって、500万化合物から22化合物を得た。脱皮ホルモンに関しても、リガンド分子の構造活性相関データーを元にしたバーチャルクリーニングを行ってC6H5-C=N-NH-C(=O)-C-C10H7の基本骨格をもつ化合物に弱いながら活性を見いだしている。さらにLigandScoutを用いて、予備的なスクリーニングを行って、類似の基本構造を得ている。2020年度には、Hunyadiとの共同研究でステロイド化合物の構造活性相関に関してのさらなる情報を得た。すなわち、C/D環縮合部位の14位に存在しているOHが無くなると活性が2倍程度上昇すること、C環部への2重結合の導入やOH基の導入は活性を低下させるものの、高い活性を維持することがわかった。現在、さらに大きなデーターベースを用い、ファーマコフォアを修正して、LigandScoutを用いたスクリーニングを行っている。また、非ステロイド型の脱皮ホルモン類のひとつであるtetrahydroquinoline類に関しても、構造活性相関の研究を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
研究者らのグループは、2011年に、ROCS (OpenEye社)というバーチャルスクリーニング用のソフトウエアを用いて3つの非ステロイド型化合物を見いだしている。その中の一つは基本構造がC6H5-C=N-NH-C(=O)-C-C10H7である。最近、別のバーチャルスクリーニング用のソフトウエアLigandScoutを用いてスクリーニングを行ったところ、-C=N-NH-C(=O)-C-の架橋構造をもった化合物40個がヒットした。その中の一つの化合物C6H2(4-OH, 3,5-OCH3)-CH=N-NH-C(=O)-CH2-C6H4(4-Br)の活性を調べたところ、弱いながら脱皮ホルモン受容体結合活性を示すことがわかった。LigandScoutは植物ステロイドホルモンの非ステロイド化合物の探索に用いたソフトウエアで、リガンドー受容体の結晶構造をもとにしたファーマコフォアを使うことから、その修正が必要になる。すなわち、構造活性相関の情報をもとにして、受容体との結合にとって必ずしも必須とは考えられない領域を削除して、なるべく多数ヒットするように修正するが、緩和しすぎてヒット数が多くなりすぎるのも問題で、適度な修正が必要である。今後は、昨年度、Hunyadiらと共同研究で得たステロイド化合物の構造活性相関のデーターをもとにファーマコフォアを修正し、新たな大きな構造データーベース(800万化合物)からスクリーニングを行う。また、すでに見いだしている基本構造(-C=N-NH-C(=O)-C-)をもった化合物の合成を行う。バーチャルで得られた化合物の受容体への結合エネルギーを計算して、構造を絞り込む。さらに、活性が見出された化合物に関しては構造活性相関を調べて活性を高める。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染により4月から緊急事態宣言。研究機関が短縮されたこと。学会もオンラインだ開催され出張経費も必要とならなかったため。出費が少なくなった。
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