研究課題/領域番号 |
19K06053
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
松井 英譲 岡山大学, 環境生命科学研究科, 准教授 (20598833)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | MTI / PTI / plant defense / callose deposition / タンパク質リン酸化 |
研究実績の概要 |
植物の備えるMAMP-triggered immunity (MTI)は広範な病原菌に対して有効な防御機構である。植物は微生物の保存性の高い成分(microbe-associated molecular pattern: MAMP)を、細胞膜上に存在するパターン認識受容体が認識、下流にリン酸化シグナルを伝達することで、広範な病原菌に対する抵抗性を誘導する。一方で、病原菌認識から抵抗性誘導の間には未だ多くの不明点が残されている。 申請者らはMAMP処理後にリン酸化状態が変化するタンパク質群(MAMP-responsive phosphoproteins: MRPs)を同定し、それらmrp遺伝子のT-DNA挿入変異体の解析から、MAMP処理時にカロース蓄積が有意に低下する変異体を同定した(MARK2と命名)。MARK2はMTIシグナル伝達に重要なMPK3/6の基質であり、野生型と比較して、mark2変異体は親和性病原細菌Pseudomonas syringae pv. tomato DC3000 (Pto)接種時の細菌増殖が高まること、殺生性細菌Pectobacterium carotvorum pv. carotovorum(Pcc)接種でより病徴が進展する表現型を示す。本年度は、MTIシグナルで共通して機能するMARK2が担う分子機構の解明を目指し、遺伝子発現解析を行った。その結果、mark2変異体では植物ホルモンであるジャスモン酸/エチレン関連遺伝子の発現が有意に低下することが明らかとなった。mark2変異体で発現が低下したジャスモン酸/エチレン関連遺伝子群は、殺生菌に対する抵抗性に寄与することが知られており、mark2変異体で認められるPcc接種時の病斑拡大の表現型とも一致する。現在、MARK2-GFP形質転換体を利用した相互作用因子の探索を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
遺伝子発現解析の結果、flg22処理やPtoDC3000接種に伴い、mark2変異体ではジャスモン酸/エチレン関連遺伝子の発現が低下すること、カロース生合成関連遺伝子や細胞壁形成関連遺伝子の発現が低下することが明らかとなった。得られた結果を基に、MARK2が制御する分子機構について解析を進めている。 MARK2はリン酸化タンパク質であることから、脱リン酸化状態相補個体ならびに擬似リン酸化状態相補個体を作出し、flg22処理時のカロース蓄積について検証した。その結果、脱リン酸化ならびに擬似リン酸化状態相補個体では、共にflg22処理時のカロース蓄積が回復しなかった。通常の相補個体ではカロース蓄積が回復することから、一つの可能性として、MARK2のリン酸化部位の立体構造がカロース蓄積に影響を及ぼす可能性がある。現在、これら相補株の遺伝子発現解析について準備を進めている。 これまでにYeast two hybrid screening (Y2H)法で同定したMARK2相互作用因子MK2BP1との共局在について検証した。N. benthamianaを用いた一過的発現系において、MARK2とMK2BP1は細胞内で共局在を示した。一方で、in vitro binding assayによる物理的な相互作用について検証したが、現時点でタンパク質ータンパク質相互作用は認められていない。
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今後の研究の推進方策 |
mark2欠損変異株ならびにMARK2相補個体を用いた解析から、MARK2のリン酸化部位への変異導入は、MARK2タンパク質の機能に影響を及ぼす可能性が示唆された。そこで、MARK2のリン酸化が抵抗性に及ぼす影響について、病原菌の接種試験を行い、検証する。 MARK2の分子機能の理解を目的に、これまでY2H法で同定したMARK2相互作用因子との物理的な相互作用の検証を進めてきたが、現時点でタンパク質ータンパク質相互作用については認められていない。そこで、既にホモ化したMARK2-GFP形質転換植物を利用することで、相互作用因子の同定を試みる。MARK2-GFP形質転換体を用いたMARK2-GFPタンパク質の検出に成功しており、共免疫沈降法を利用して相互作用因子の同定を進める。また、MARK2SA-GFP形質転換植物も複数系統得られたことから、これらも相互作用因子の同定に利用する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度購入予定していた純粋製造装置の購入を見合わせたことで、当該助成金が生じることとなった。次年度は、タンパク質ータンパク質相互作用について解析する予定であり、生化学用試薬の購入ならびに解析費用に充てることを予定している。
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