研究課題
矮性や構成的な防御反応が起こる自己免疫は、植物免疫の緻密な制御バランスが、遺伝子の変異等により崩れることで生じる。我々は自己免疫表現型を示すシロイヌナズナmekk1変異体に対するサプレッサー変異体の原因遺伝子としてSMN2を同定した。SMN2はDEAD-box RNAヘリカーゼをコードし、核RNA品質管理機構で重要な核RNAエキソソームのRNA分解特異性を決定する。しかしながら、植物免疫における核RNAエキソソームの機能は不明であることから、本研究では植物免疫におけるSMN2の機能を明らかにすることを目的とした。先に同定したmekk1変異体に対するサプレッサーsmn1/rps6は、トマト斑葉細菌病菌Pst DC3000 (hopA1)のエフェクターhopA1を認識しETIを誘導する。同じスクリーニングで同定されたSMN2はSMN1と機能的に関連すると思われた。smn2変異体におけるSMN1の発現を解析したところ、SMN1の3'領域においてRNAの蓄積が検出された。P. syringae (hopA1)に対して、smn2変異体も野生型と比較してより罹病性となったことから、smn2変異によりSMN1の機能低下が生じることが明らかとなった。さらに、研究の発端となったmekk1変異体およびやmpk4変異体の自己免疫表現型をsmn2変異は抑制した。smn2変異によるSMN1の機能低下が、MEKK1-MKK1/MKK2-MPK4経路欠損により活性化する自己免疫表現型の抑制につながったと考えられた。SMN2の機能について広く知見を得るため、RNA-seqとGOエンリッチメント解析を行い、防御遺伝子のゲノムワイドな発現において、SMN2が正の役割を担うことが示された。以上より、RNAエキソソームによる植物免疫関連遺伝子の機能制御の一端が明らかとなった。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究では植物の自己免疫表現を入口に、1)SMN1 とSMN2 をモデルとして、核RNAエキソソームがどのようにR 遺伝子のmRNA分解制御を介して植物免疫と機能的に関わるか、また、2)防御関連遺伝子発現におけるSMN2 の機能は何か、以上の2点を明らかにすることを当初の課題とした。SMN1の植物免疫における機能は、非病原性遺伝子 hopA1 を有するトマト斑葉細菌病菌 Pst DC3000 (hopA1) に対する病害抵抗性である。シロイヌナズナ野生型とsmn2 変異体に対して、Pst DC3000(hopA1)を接種し、病害抵抗性を比較したところ、smn2変異体は野性型より罹病性を示した。また、MEKK1-MKK1/MKK2-MPK4経路の変異体 であるmekk1 および mpk4 の自己免疫表現型が、smn2 と二重変異体を作製することで抑制されることを明らかにした。これらのことから、SMN2はSMN1の機能と密接に関連する重要な因子であることを明らかにした。SMN1の場合に留まらず、植物免疫においてSMN2影響下にある遺伝子を同定し、SMN2の機能について広く知見を得るため、野生型とsmn2変異体を用いたRNA-seq解析を行った。そのデータを基にGOエンリッチメント解析を実施した結果、smn2変異体では多数の防御遺伝子の発現が低下していた。よって、防御遺伝子のゲノムワイドな発現において、SMN2が正の役割を担うことが示唆された。以上のことから、核RNAエキソソームがSMN2を介して防御関連遺伝子の発現を正に制御する可能性を明らかにした。本研究は植物免疫分野において新たな知見を提供するものである。
まず、本研究については、研究開始当初の目的はほぼ達成されたと思われる。今後の研究方針としては、次なる段階を見据えて、足がかりとなる研究を前倒しして着手する。具体的には、smn2変異がなぜSMN1の機能低下を引き起こすのかについて解析を行う。これまでの研究から、smn2変異体ではSMN1遺伝子の3’領域末端領域に由来するRNAの異常な蓄積が起こる。RNAエキソソームは標的となるRNAを3’末端側から分解するので、この点に関して特に問題はない。しかし、smn2変異体のように、そのRNAが分解を免れた場合にどのような影響を及ぼすかについては不明である。この問題を解き明かすモデルケースとして、SMN1遺伝子の3’領域末端領域で高蓄積するRNAを機能解析する。第一に、前述の高蓄積するRNAがSMN1の機能欠損の原因であるか検証する。方法としては、過剰発現体を作製し、その系統に対してトマト斑葉細菌病菌Pst DC3000 (hopA1)を接種することで解析する方策が考えられる。第2として、smn2変異体を背景として、RNAの異常蓄積が生じるSMN1の遺伝子領域をゲノム編集などにより破壊した場合、SMN1遺伝子の機能低下が抑制されるか解析を行う方策が考えられる。これらの戦略により、これまで植物免疫と接点が皆無だった核RNAエキソソームによる転写後調節による植物免疫制御の一端が詳細に解明しうるよう、次の段階を見据えて今後の研究を展開してゆく。
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Plant and Cell Physiology
巻: 61 ページ: 1507~1516
10.1093/pcp/pcaa071
https://www.kagawa-u.ac.jp/25064/
https://www.ag.kagawa-u.ac.jp/kichimura/pg291.html