研究課題/領域番号 |
19K06055
|
研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
小林 括平 愛媛大学, 農学研究科, 教授 (40244587)
|
研究分担者 |
賀屋 秀隆 愛媛大学, 農学研究科, 准教授 (80398825)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 植物免疫 / ウイルス病 / 退緑 / 細胞死 / 植物ホルモン |
研究実績の概要 |
本研究では,ウイルス病における退緑黄化などの症状の発症に関わるメカニズムを明らかにする目的で,ウイルス遺伝子の発現,あるいは葉緑体タンパク質遺伝子の発現抑制によって,人為的に退緑黄化を誘導可能な遺伝子組換えモデル植物を用いて解析を行う。これまでに5種類のモデル植物を作出した。特に,キュウリモザイクウイルスのYサテライトとモモ潜在モザイクウイロイドの病原性標的であるChlIおよびHsp90Cの発現を任意のタイミングで抑制することのできるi-amiChlIタバコおよびi-hpHsp90Cタバコについては,網羅的遺伝子発現解析を行い,植物の病害に対する防御応答に関わる遺伝子の発現が,退緑黄化の発症と関連していることを示す結果を得ている。 2019年度は,i-amiChlIタバコおよびi-hpHsp90Cタバコの網羅的遺伝子発現解析データをより詳細に比較解析を行った。また,遺伝子発現変動の結果から予測される植物体の挙動に関する観察を行った。一方,カリフラワーモザイクウイルスのTavタンパク質を誘導的に発現し,著しい成長抑制と退緑を示すシロイヌナズナ(iTavナズナ)では,成長抑制の誘導にTavタンパク質ではなく,誘導発現に用いている転写因子が関与する可能性が考えられた。そこで,Tavタンパク質の欠失変異体を発現する植物の表現型解析を行い,その結果,,成長抑制にはTavタンパク質と誘導発現用転写因子の両者が関与し,葉の退緑はTavタンパク質によって誘導されることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
i-amiChlIタバコおよびi-hpHsp90Cタバコの網羅的遺伝子発現の比較解析においては,病害防御応答経路や,活性酸素種応答経路,細胞死関連経路,複数の植物ホルモン経路の活性化,ならびに光合成をはじめ,種々の代謝経路に関わる遺伝子の発現抑制が両者に共通して認めた。この結果に基き,葉緑体における活性酸素種の生成や,葉における加齢依存的な散在性の細胞死が,退緑黄化を発症しつつある植物において実際に生じていることを確認した。一方,2つの実験系の比較において,i-hpHsp90Cタバコに特異的な,unfolded protein response経路に関わる遺伝子などの発現亢進と,細胞分裂制御や概日時計に関わる遺伝子の発現抑制が見いだされ,2つの系における細胞死の誘導が異なる経路を介している可能性が示唆された。両実験系においてサリチル酸(SA)の生合成や応答が活性化していたことから,SAの退緑黄化発症における役割を明らかにするために,SA分解酵素遺伝子(nahG)を導入した二重遺伝子組換え植物を作出した。i-hpHsp90C/nahGタバコでは,i-hpHsp90Cタバコと同様に退緑黄化が誘導されたが,i-amiChlI/nahGタバコでは,退緑誘導の低下が認められた。しかし,対照として蛍光タンパク質遺伝子を導入したi-amiChlI/EGFPタバコにおいても,退緑黄化の誘導が抑制される個体が認められた。 iTavナズナでは,誘導発現に使用している人工キメラ転写因子が成長抑制の誘導に関与する可能性が考えられた。そこで,Tavタンパク質の欠失変異体を発現するシロイヌナズナを作出し,病徴様の表現型を誘導する能力を評価した。その結果,Tavタンパク質の病原性関連ドメインを欠失した変異体Tavタンパク質を発現する植物では,軽微な成長抑制のみが認められ,葉の退緑は認められなかった。このことから,成長抑制にはTavタンパク質とGVGキメラ転写因子の両者が関与し,葉の退緑はTavタンパク質によって誘導されるものと推察された。
|
今後の研究の推進方策 |
2019年度,SAが退緑黄化発症モデルタバコにnahGを導入した二重遺伝子組換え植物を作出した結果,明確な退緑黄化発症はi-hpHsp90CタバコではSA非依存的であるが,i-amiChlIタバコではSA依存的であることを示唆する結果が得られた。しかし,上述のように対照植物においても退緑黄化発症が軽減された個体が認められたことから,二重遺伝子組換え植物の作出がChlI遺伝子の発現抑制に影響した可能性が考えられた。そのため,より多くの二重遺伝子組換え植物系統を作出するとともに,SAの定量,およびChlI遺伝子やHsp90C遺伝子の発現解析を行い,両モデル植物の退緑黄化発症におけるSAの役割について確認する。また,当研究室においてゲノム編集が可能になったことを受け,本研究においてもゲノム編集の手法を広く活用し,退緑黄化発症における種々の植物免疫関連因子の役割を解析する。その端緒として,i-hpHsp90Cタバコとi-amiChlIタバコの両方で高度に発現誘導されていたSA合成の鍵酵素,イソコリスミ酸合成酵素遺伝子への変異導入を行い,退緑黄化発症におけるSAの役割の解析をより強力なものとする。また,2020年度から着手予定の多様な植物免疫関連因子についても変異導入の取り組みを開始する。 シロイヌナズナの実験系では,iTavナズナで観察された成長抑制が,Tavタンパク質だけでなく,誘導発現に使用したGVGキメラ転写因子によるシロイヌナズナ遺伝子の発現活性化に依存したものであることが示された。そのため,これまで用いてきたiTavナズナは今後の解析には,不適切であると結論付けざるを得ない。そこで,これまで用いてきたデキサメサゾン依存的なGVGキメラ転写因子系とは異なる発現誘導系として,エストラジオール依存的なXVEキメラ転写因子系を用いて新たなiTavナズナを作出中である。今後はエストラジオール誘導性iTavナズナを用いてシロイヌナズナにおける退緑黄化発症機構を解析する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究の成果は現在投稿中。当初は,2019年秋に投稿し,同年度内にオープンアクセス論文として発表する予定であったが,投稿が遅れたため,2020年度にオープンアクセス料金を支払う目的で,約20万円を次年度に繰り越すこととした。
|