植物は病原菌の侵入を細胞膜上の受容体で特異的に認識できるため、病原菌の感染時に活性酸素種や抗菌性物質の産生、気孔の閉鎖など様々な防御反応を発動する。一方で、病原菌は植物の抵抗性を回避するために、エフェクタータンパク質を獲得してきた。植物に感染した病原菌は複数のエフェクタータンパク質を産生し、植物の細胞内にエフェクターを直接注入する。エフェクターの一部は、植物の主要な免疫因子を標的とし、植物の免疫システムを攪乱することで、病原菌の増殖を有利にする。申請者は、このエフェクターの特性を利用し、主要な植物免疫因子を発見することで、新たな植物免疫システムを明らかにするとともに、エフェクターによる免疫抑制機構を明らかにしてきた。 イネ白葉枯病菌はイネの最重要病害の一つであり、現在も東南アジアなどの地域でイネの生産に大きな被害を与えているバクテリアである。申請者はイネの免疫応答を強く抑制する白葉枯病菌エフェクター、XopZが核に局在することを見出した。XopZは自身のタンパク質の構造から、その機能が予測できない。酵母ツーハイブリッド法を利用して、XopZの核内標的因子を探索した結果、イネのZIP(XopZ Interacting Protein)3タンパク質を同定した。ZIP3は機能未知タンパク質であった。ゲノム編集技術を利用して、ZIP3欠損イネを作出した。ZIP3欠損イネは、イネ白葉枯病菌T7174株に罹病性を示した。さらに、ZIP3欠損イネでは、病原菌の構成成分に応答した活性酸素種の産生が野生株よりも減少した。以上の結果から、ZIP3はイネの免疫を正に制御すること示唆された。さらに、ZIP3はダイマーを形成し、XopZがそのダイマー形成を阻害する可能性を示唆するデータを得た。今後、本研究課題で得た知見を利用し、ZIP3を介した新たな植物免疫システムの解明を目指す。
|