研究課題/領域番号 |
19K06063
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
世古 智一 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 中央農業研究センター, 上級研究員 (00360446)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 生物的防除 / 放飼増強法 / 育種 / 人為選抜 / GUT / タイリクヒメハナカメムシ / 近親交配 |
研究実績の概要 |
天敵は害虫の発生初期に放飼されるが、餌が少ないため定着に失敗しやすい。そこでアザミウマの天敵であるタイリクヒメハナカメムシ(以下、タイリク)を対象に歩行活動量に対する人為選抜を行い、探索をあきらめて餌場を去るまでの時間(Giving up time: GUT)が長い系統を育成した。本系統は作物上での定着性が向上し、アザミウマに対し高い防除効果を示したが、GUTを延長させることによる長所および短所を明らかにし、有効性を総合的に評価する必要がある。2019年度は、育成された系統(選抜系統:選抜開始から71~72世代目)の生存、発育、繁殖に関連する特性を調査し、選抜を行わずに維持している系統(非選抜系統:確立してから74~75世代目)と比較することにより、長期の人為選抜が近親交配を進行させているかどうかについて検証した。また選抜系統は、系統内の全ての個体の歩行活動量が下がっているわけではなく、歩行活動量の低い個体は高い個体に比べて生存率や産卵数が低下している場合、人為選抜を中止すると歩行活動量の高い個体が多くの子どもを残し、系統内の歩行活動量が回復する恐れがある。そこで、人為選抜を中止してから5世代後の歩行活動量を計測した。 タイリクを個体飼育し、羽化するまでの発育日数、生存率、産卵数および孵化率を計測した結果、調査した特性のいずれも系統間で明確な違いは見られなかった。また選抜系統の歩行活動量は非選抜系統よりも低く(雄:4分の1、雌:5分の1)、人為選抜を中止する前の歩行活動量と違いは見られなかった。本研究の結果は、人為選抜が近親交配を進行させ、生存、発育、繁殖に負の影響を及ぼしていないこと、また歩行活動量が低下した要因は近親交配の影響によるものではないことを示唆しており、選抜系統の大量増殖や品質管理、放飼後のパフォーマンスの評価において重要な知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画では、2019年度から2020年度にかけて、長期の人為選抜が採餌行動にかかる特性に及ぼす影響を検証することとしている。2019年度は、タイリク系統の生存、発育、繁殖に関する特性を対象に系統間を比較し、また人為選抜を中止した後の歩行活動量の回復を検証することにより、人為選抜が近親交配を進行させ、歩行活動量、生存、発育、繁殖に影響を及ぼしていないことを明らかにした。そのため、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予測では、歩行活動量に対する長期の人為選抜が近親交配を進行させ、選抜系統の生存、発育、繁殖に関する特性は非選抜系統に比べて低下していることが考えられた。またGUTが延長しているのは、近親交配の影響によって歩行活動量が低下している可能性も考えられた。しかし本年度の調査から、人為選抜が近親交配を進行させ、生存、発育、繁殖に負の影響を及ぼしておらず、また歩行活動量が低下している要因として近親交配の影響は検出されなかった。そのため、系統間を交雑させることによる雑種強勢の効果を検証する必要性がなくなった。 一方、この1~2年の間に、コクヌストモドキにおいて歩行活動量の異なる系統間では足のサイズが違っていることや飢餓耐性が異なることが報告されている(Matsumura and Miyatake, 2018; Matsumura et al. 2019)。本研究課題で扱っているタイリク系統においても同様の事が生じている場合、これらの特性が生物的防除の有効性に影響する可能性があるため、歩行活動量に対する人為選抜がタイリク系統の体や足のサイズ、および飢餓耐性に及ぼす影響について、調査項目を追加する。また2020~2021年度は当初の予定通り、餌密度が採餌行動に関する特性に及ぼす影響を検証するため、アザミウマを複数の密度条件で用意し、各パッチに定着する割合、パッチ滞在時間、捕食効率等を測定し、非選抜系統と比較する。
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次年度使用額が生じた理由 |
・理由:2019年度の調査において、人為選抜が近親交配を進行させ、生存、発育、繁殖に負の影響を及ぼしていないことが明らかとなり、系統間を交雑させることによる雑種強勢の効果を検証する必要がなくなった。また2020年3月に予定していた学会発表が新型コロナウイルス感染拡大の影響により中止となり、出張取り止めで旅費の支出が行われなかった。 ・使用計画:体や足のサイズおよび飢餓耐性の調査は当初の計画にはなかったため、解析法を習得するための出張や本調査に必要な物品購入等に使用する。
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