研究課題/領域番号 |
19K06078
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
平井 和之 杏林大学, 医学部, 講師 (70597335)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 受精卵 / 有糸分裂 |
研究実績の概要 |
受精卵第1回目の有糸分裂における紡錘体は、通常の紡錘体とは異なるこの時期に特有な構造をもち、これには新しい接合子を形成する重要なはたらきがあると考えられている。この紡錘体は2つの微小管のユニットから構成され、それらが並んで配置されている。それぞれには複製された精子由来の染色体のセットと同じく複製された卵由来の染色体のセットが含まれていることが古くから知られている。しかしその詳細は不明である。われわれは最近、キイロショウジョウバエの母性因子のひとつであるElysタンパク質が、この時期の正常な紡錘体形成に必須なことを示している(Hirai et al., G3, 2018)。本研究において、まず受精卵第1回目の有糸分裂を詳細に解析するために有用な抗Elys抗体(ウサギ、ポリクローナル)の準備からはじめた。当該年度に、少なくとも胚の免疫染色で使用可能な今後の研究の推進に有用な抗体が得られた。また、並行して行った細胞学的解析で新たな発見があった。変異による機能欠損、過剰発現のいずれの場合も初期胚の発生が停止するが、それらは紡錘体の相反する形態的異常により引き起こされていることが分かった。卵形成時におけるこのタンパク質の適切な発現量が受精卵第1回目の有糸分裂における紡錘体形成に重要なことが示唆される。今年度に実施した研究により、次年度以降、Elysタンパク質の機能解析を通して受精卵における紡錘体形成機構を明らかにするという研究の方向性が定まったと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実験に用いることが可能な抗体が得られるまでに時間を要した。2回の試みのうち、初回は研究の汎用性を考え、キイロショウジョウバエ、オナジショウジョウバエ、アナナスショウジョウバエの3種が共通にもつElysタンパク質N末端寄りの15アミノ酸を抗原部位として選択した。しかし得られた抗体では胚の免疫染色とウエスタンブロッティングのどちらでも検出ができなかった。2回目はキイロショウジョウバエ、オナジショウジョウバエの2種が共通にもつC末端の15アミノ酸のペプチドを抗原として試み、実験に使用可能な抗体を得ることに成功した。これまではElysとタグの融合タンパク質の発現により、タグを通してElysを可視化してきたが、今後は本来のElysタンパクを直接扱った実験を計画することも可能になった。また、これまでに行った卵形成過程におけるElysの発現量を変化させた場合の細胞学的な表現型解析から、発現量と表現型の相関が強く示唆される、興味深い予備的データを得ている。
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今後の研究の推進方策 |
まずは発現量と表現型の相関を明確にするため、これまでの表現型解析を発展させて確定的な実験データを得る。細胞周期が非常に早く進行するショウジョウバエの初期胚では、M期に核膜がすべて崩壊するのではなく大部分が残存する様式の核分裂が行われる。これまでに染色体と微小管の動態についてよく調べられているが、核膜について不明な点も多い。受精卵第1回目の有糸分裂における紡錘体形成の詳細を明らかにするために、これまでの染色体と微小管だけではなく、核膜のマーカーも取り入れた解析を行うこととする。これら固定卵を用いた実験を推進することとあわせて、微小管の温度感受性を利用した受精卵観察法の確立に向けた研究にも取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に固定卵を用いた実験を中心に進めたことから、受精卵のライブ観察を行った場合にかかる経費が未使用となった。これについては今後の使用を予定している。
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