研究課題/領域番号 |
19K06085
|
研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
玉手 英利 山形大学, 理学部, 教授 (90163675)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 侵略的外来種 / 生物多様性 / 分子系統地理 / 保全生物学 |
研究実績の概要 |
本研究では小笠原諸島のクマネズミの起源と島間の移動の状況を明らかにすることを目的として、分子系統地理学的解析を行った。Mc1rを用いた分子系統解析では小笠原諸島では系統ⅠR.rttusと系統ⅡR.tanezumiの2系統が移入していることが示唆されている(神戸、2013)。一方、マイクロサテライトを用いた研究では小笠原のクマネズミ集団が大きく3集団に分かれることが示されている(中田、2016)。そこで本研究は、現在みられる3つの分集団が異なる起源をもつのか、あるいは小笠原諸島に移入してから分かれたのかを明らかにする目的で、ミトコンドリアDNAを用いた分子系統解析を行った。その結果、CO1 では3種類、CYTBでは2種類のハプロタイプが確認され、先行研究と同様、小笠原諸島には系統ⅠR.rattus、系統ⅡR.tanezumiの2系統が存在することが示された。地理的にみると(1)弟島、兄島北部ではR.rattus、(2)兄島東部、南部、瓢箪島、西島、人丸島ではR.rattus・R.tanezumiの2系統、(3)父島、南島、母島ではR.tanezumiが分布していた。この分布は、先行研究のマイクロサテライト解析で示された3集団の分布とほぼ一致した。以上から一斉駆除後の弟島ではR.rattusが残存し、駆除が行われなかった父島ではR.tanezumi系統が分布し、両者の中間に位置する兄島東部、南部、瓢箪島、人丸島、西島では二つの系統が交雑することで新たな集団が生じている可能性が考えられる。本研究で確認されたR.rttus系統はインド、南アフリカ、東アフリカと遺伝的に近縁であるため、欧米の捕鯨船によって移入された可能性がある。一方、R.tanezumi系統は東京、奄美諸島、東南アジアと同じもしくは近い配列であるため、南洋諸島方面からの輸送船から移入された可能性があると考えている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
サンプリングは完了しており、遺伝子分析もおおむね順調に進んでいる。しかし、研究代表者が令和2年度から学長職を務めることになり、そのための学内選考手続きで時間を要したために、2019年度後半に予定していたベイズ法によるデータ解析が一部遅延したので、全体評価としては「やや遅れている」とした。
|
今後の研究の推進方策 |
コロナ禍により、現地調査が著しく困難となっており、年度計画の変更または調査方法の変更を余儀なくされる可能性が考えられる。そのため、2020年度は、9月以降の状況次第では現地調査をとりやめ文献調査に変更することを検討している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
代表研究者が学長選考の対象となり研究業務の一部に遅れが生じたため、当該年度中に調達予定であった物品等の使用計画を翌年度に変更した。具体的にはベイズ解析等のデータ処理に使用する機器類の購入を次年度に行う計画である。
|