研究課題/領域番号 |
19K06088
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
中桐 昭 鳥取大学, 農学部, 教授 (70198050)
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研究分担者 |
遠藤 直樹 鳥取大学, 農学部, 助教 (20776439)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 凍結保存 / 難保存性 / 菌根性担子菌 / バーミキュライト / 菌根形成能 |
研究実績の概要 |
本研究は、菌株保存が困難な菌根性担子菌類培養菌株の凍結保存法を開発するとともに、保存後の菌株の品質評価法も開発して、この菌群の特性が維持できる長期保存法を確立することを目的としている。 2019年度は、菌糸体凍結前の前培養方法として、液体培地を含ませたバーミキュライトをシャーレに敷いて菌糸を培養し、バーミキュライトごと凍結試料とする方法(シャーレ法)が、凍結・復元後の生残率が高く、凍結前後の菌糸成長速度の違いが少ない点で、有効な凍結法である可能性が示された。 これを踏まえ、2020年度は、菌株性状の保存性を評価する方法として、凍結復元後の菌株が宿主植物の根との菌根形成能を維持しているかを調査し、凍結保存法の比較評価を行う実験に取り組んだ。バーミキュライトを培養基質として用いる上記のシャーレ法に加えて、寒天培地に菌を接種した上にバーミキュライトをかぶせて培養する方法(サンド法)、バーミキュライトに融けた寒天培地を加えて固化したところに菌を接種し培養する方法(埋め込み法)の3つの前培養法によって凍結保存したアカハツ菌株(Lactarius akahatsu TUFC 101127)を復元した後に、アカマツ無菌実生苗に接種して菌根合成を行い、アカマツ根の菌根化率(菌根化した根端数/全根端数)、菌根の微細形態(菌鞘の厚さ、ハルティヒネットの発達程度)および植物体バイオマスを調査した。その結果、3つの前培養法間で菌根形態およびバイオマスには差異は見られなかったものの、菌根化率はシャーレ法で前培養した株が有意に高く、菌根性担子菌株の凍結保存方法として有効であることが示された。現在、菌種菌株を増やして検証を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、菌根性担子菌株の凍結保存法として有効性が報告されているバーミキュライト・チューブ法の改良を目指して、その前培養法の変法として、シャーレ法、サンド法、埋め込み法を開発・試行した。復元後の生残性および菌糸成長速度を指標に、菌株性状の保存性を評価したところ、シャーレ法がすぐれていることを見出した。2020年度では、菌株性状の保存性評価の対象として、菌根性担子菌にとって重要な性状である菌根形成能の維持を評価指標とするために、アカハツ菌株と宿主植物のアカマツ無菌実生苗を用いた菌根合成実験を試行し、凍結保存後に菌根形成能が維持されているかどうかを検証した。その結果、凍結保存後も菌根形成能は維持されており、凍結保存の前培養法としてシャーレ法を用いた場合の菌根化率が他の方法よりも有意に高く、その有効性が示唆された。なお、現在すでに菌種菌株を増やして、シャーレ法の有効性の検証を進めている。 このように、難保存性の菌根性担子菌株の新たな凍結保存法として、バーミキュライト・シャーレ法が、凍結後の生残性、菌糸成長速度、そして、菌根形成能の維持の点で有効な保存法である可能性を見出している。以上のことから、本研究はおおむね計画通りに進展し、成果を上げていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの成果から、菌根性担子菌株の凍結保存法としてバーミキュライト・シャーレ法の有効性が示唆されたことから、2021年度(最終年度)は、調査対象の菌種菌株を増やすとともに、子実体から分離直後の菌株、植え継ぎによる継代培養後の菌株、および凍結保存後の菌株を用いた菌根合成での菌根化率や菌根の微細形態を比較することで、凍結保存の有効性評価と前培養法の比較再評価を行うとともに、菌根合成した実生苗の栽培期間を長期に設定して菌根化率と植物体バイオマスとの関係を再検証して菌根の機能性の評価を行うことにより、菌根性担子菌株の特性を維持できる有効な凍結保存法の確立を目指す。 また、2019年度の実験で、バーミキュライト・シャーレ法の前培養の際に、バーミキュライト上で十分な菌糸成長が得られない菌株(10株中3株)があったので、前培養培地の検討や前培養用接種源の調整方法の改良などにも取り組み、より広範な分類群に適用できる凍結保存法の改良を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
支出を予定していた凍結保存用資材や菌株同定のためのシーケンス解析経費を他の経費からも一部賄うことができたこと、また、菌根性きのこの採集を計画していたものの、新型コロナ感染拡大の影響により採集が予定通りにできなかったこと、また、学会発表も大会が中止やオンライン開催となり旅費の支出が不要となったことなどのため、約51万円の残金が発生した。今年度は、菌根合成のために必要な実験資材の購入、DNA調整試薬の購入、シーケンス解析費や論文の英文校閲費などに充当する予定である。
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