研究課題/領域番号 |
19K06089
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
斉藤 知己 高知大学, 教育研究部総合科学系複合領域科学部門, 准教授 (80632603)
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研究分担者 |
河津 勲 一般財団法人沖縄美ら島財団(総合研究センター), 総合研究センター 動物研究室, 上席研究員 (50721750)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 絶滅危惧種 / タイマイ / 資源保全学 / 動物生態学 / 生残率 / フレンジー / 孵卵温度 / 日内変動 |
研究実績の概要 |
タイマイは過去にべっ甲の原料として乱獲されて生息数が激減し、IUCNレッドリストでウミガメ類中最も絶滅の危険度が高いCRに分類されている。本種では保全を目的とした野外調査のみならず、べっ甲材の確保を目的とした人工繁殖の研究も行われているが、いまだ採卵の機会が少ないため、孵卵条件等の基礎的知見の蓄積が十分でない。本種の産卵生態で他種と異なる点として、1日を通して日陰となる様な植生下に産卵する傾向があることが知られている。その様な場所では開けた場所と比べて砂中温度の日内変動が小さい。アカウミガメを扱った先行研究より、孵卵温度を一定とした場合と日内変動を施した場合で、幼体の孵化率や外部形態に影響があることが予想された。本研究では、タイマイにおいて温度の日内変動が孵卵に与える影響を明らかにし、幼体の生残を高める好適な孵卵条件を検討することを目的とした。 沖縄美ら海水族館の人工砂浜で産卵されたタイマイの卵について、一回の産卵のうち約100卵を、29℃で一定の定温区、29℃を基準に日内変動±1℃とした変温区①、±2℃とした変温区②の3つの実験区に等分して孵卵し、孵化後、幼体の外部形態・運動性等の測定を行った。 孵化率は定温区で最も高く、次いで変温区①、②の順で低くなった。鱗板配列変異の発生率は定温区で最も低く、次いで変温区①、②の順で高くなった。運動性は各区で違いは見られなかったが、全ての実験区で幼体のフレンジー(孵化幼体の脱出直後の興奮状態)が発現してから1時間以内に泳力が半分以下に低減した。 以上より、タイマイにおいて孵卵温度の日内変動は、孵化率低下と鱗板配列変異をもたらすことが分かった。また、他種に比べて本種のフレンジーの発現は明瞭でなく、短時間で沈静することが分かった。これらから、本種にみられる植生下への産卵は、孵卵温度の日内変動の負の影響を緩和させる効果があると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
タイマイの生息数は大変少なく、例年、国内では沖縄本島以南の島嶼の海岸で年間10回程度しか産卵が確認されていないため、自然下から試料となる卵の十分な確保は到底、見込めない。しかし、研究分担者の所属する沖縄美ら海水族館ではタイマイの人工環境下での繁殖に成功し、その卵を本研究に利用する事に合意が得られている。そこで、本研究では、同館で繁殖に成功したタイマイの人工繁殖卵を利用した。しかし、令和元年度の研究ではタイマイの人工繁殖卵を4巣確保できたものの、いずれの産卵巣も孵化率が低く、実験に供試できた孵化幼体の数が少なかった。実験の結果から得られた幼体の形態や運動性等の性向としては、期待された内容であったが、それを普遍的な知見として一般化するには標本数が十分では無かった。 一方、ウミガメ卵に大きな振動を与えると胚発生が停止して死に至るとされるが、産卵後24時間以内であれば、その影響は少ない事が経験的に知られている。その為、平成30年度に沖縄美ら海水族館で繁殖した産卵巣約150個から50卵を現地に残し、100卵を研究代表者の勤務する実験所(高知県土佐市)まで24時間以内に輸送するテストを実施した。研究分担者が出勤後、タイマイの産卵を確認して卵を掘り出し、午前中に那覇-高松間の航空便に載せた。次に、研究代表者が車で高松空港に行ってこれを受け取り、振動を与えないように注意を払いながら実験所に運搬し、夕刻までに卵を孵卵器に収容した。この行程を産卵から24時間以内に行う事ができた。また、その際の孵化率66.7%は現地に残した分と比較して遜色が無く、輸送後も正常に発卵生して孵化幼体が得られる事が確認できた。令和元年度も、輸送した卵と現地に残した卵の孵化率に差は無かったことから、今回の低孵化率は、交配させた個体の栄養状態などの他の要因に基づくと考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
最近、幾つかの機関でタイマイの人工繁殖を手掛け始めたという情報があり、タイマイの卵の孵化率を高める要因についてそれら機関と協同して研究を行う計画を立て、推進していきたい。また、共同研究を実現することを合わせ、さらなる卵の確保に努めたい。 タイマイは他のウミガメ類とは異なり砂浜の植生下の日陰となる場所に産卵する傾向が高い。日陰となるエリアは他のウミガメ類が産卵する、砂浜の開けた場所と比べて砂中の温度が低く、また、日内変動幅が小さいという特徴がある。本研究ではこの植生下の砂中温度環境がタイマイの孵卵において何らかの利点があると考えており、令和元年度に平均孵卵温度を29℃として、それに±1℃,±2℃の日内変動を施すことの影響を明らかにすることを目的として実験を行った。令和2年度以降も昨年度と同様の実験を行って事例数を集積していく予定である。 さらに、試料数に余裕があれば、平均孵卵温度を低温27℃、もしくは高温31℃として日内変動を施した場合についても幼体の生残に及ぼす影響を明らかにしていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度はほぼ計画に基づいて助成金を使用したが、物品費と旅費を合わせて1,403円を次年度に繰り越した。これについては令和2年度の計画に基づき使用する予定である。
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