研究課題/領域番号 |
19K06092
|
研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
原島 小夜子 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 客員研究員 (50570032)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | オオミジンコ / 内分泌撹乱物質 / 酵母レポーターアッセイ法 / 脱皮ホルモン / 幼若ホルモン |
研究実績の概要 |
本研究ではオオミジンコに対する内分泌撹乱物質の標的であり、繁殖に重要な脱皮ホルモン受容体(EcR-USP)および幼若ホルモン受容体(Met)を発現する遺伝子組換え酵母を作製し、環境試料中のそれぞれの受容体のリガンド物質を簡便・迅速(2 日)・安価に検出できるレポーターアッセイ系の創出を目指している。昨年度に完成したEcR-USPおよびMet発現酵母を用いて、本年度は環境試料中のリガンド検出を試みた。大阪府立大学中百舌鳥キャンパス内の貯水池の水試料から溶存有機物を抽出し、レポーターアッセイに供したところ、Met発現酵母は比較的強い応答を示した。EcR-USP発現酵母の応答は、Met発現酵母に比べると微弱だったが、これらのアッセイ酵母株は環境試料への利用が可能であることを示した。 これまでに作製したMet発現酵母株は、昆虫類でMetの共通の標的である変態抑制遺伝子Kruppel homolog-1 (Kr-h1)上流の応答配列を導入したが、今年度はオオミジンコ生体内でのMetの応答配列の探索も行なった。オオミジンコで幼若ホルモン(JH)-Met経路の下流にあり、環境条件悪化の際の雄仔虫の産生を決定する転写因子Vrilleの上流域のDNA断片を組み込んだレポータープラスミドを構築し、Metと転写共役因子SRCの発現プラスミドとともに酵母に導入した。新たに作製したMet発現酵母株は、7種類の既知のリガンド物質(天然幼若ホルモン2種、合成幼若ホルモン5種)に対し濃度依存的な応答を示すこと、DNA断片上のMetの結合部位とされるE-box (CACGTG)とE-box様(CACGCG)配列に変異を導入するとリガンド応答が消失することから、Vrille遺伝子はオオミジンコ生体内でのMetの直接の標的遺伝子の一つであることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はまず、これまでに作製したオオミジンコEcR-USPおよびMet発現酵母株を、環境試料中のリガンド物質検出に用いた。これは当初の目的の一つである、環境中のオオミジンコに対する内分泌撹乱物質を簡便・迅速に検出するバイオアッセイ系の確立が達成できたことを示す。また、オオミジンコの性決定因子Vrilleの上流域に、Metの応答配列が含まれることを新たに示した。オオミジンコ生体内でのMetの標的遺伝子はこれまで不明であったが、酵母レポーターアッセイ法で、応答配列の探索が可能であることを示す成果である。
|
今後の研究の推進方策 |
個体を用いた繁殖試験(脱皮回数、産仔数、仔虫の性比)でオオミジンコに対する内分泌撹乱性が疑われた物質の中で、EcR-USPおよびMetに直接作用する物質を酵母レポーターアッセイ法によって、簡便・迅速に検出することが可能になる。また、Met発現酵母を用いてVrille以外の新たな標的遺伝子を探索し、オオミジンコにおける幼若ホルモン(JH)-Metを介したシグナル伝達経路の解明にも寄与したい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2020年度初頭は、新型コロナウィルス感染拡大による緊急事態宣言発出のために、研究活動が著しく制限され、物品費が大きく減少した。宣言解除後は徐々に研究活動を再開できたものの、各種学会がオンライン開催になったため、旅費の支出が全くなかった。次年度使用額は、研究成果を英語論文にまとめるための校正、出版費用に充てる。また、オオミジンコ生体内での新たなMet応答配列の探索のための遺伝子組換え実験に必要な物品購入や外注DNAシーケンスなどの費用に充てる。
|