研究課題/領域番号 |
19K06096
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
炭山 大輔 日本大学, 生物資源科学部, 助教 (40565339)
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研究分担者 |
安齋 寛 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (70168029)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 薬剤耐性菌 / 野生動物 / 大腸菌 |
研究実績の概要 |
沖縄県ヤンバル地域におけるヤンバルクイナの大腸菌保有率およびその薬剤耐性について調査研究を行った。第1に拾得した糞便がヤンバルクイナ由来であることを確認するため、糞便からの種同定手法を確立した。これまで採取した糞便59検体のうち、48検体について遺伝的にヤンバルクイナであると同定することができた。それら48検体分に関して、大腸菌保有率およびその薬剤耐性について結果をまとめ、学術誌に投稿し受理された。ヤンバルクイナにおいては全体で65%が大腸菌を保有していた。さらにそのうちの45%がいずれかの薬剤に対して耐性を示した(本研究に使用した抗生物質は17種類)。また民家や畜産農場の多い地域と森林の多い地域別に大腸菌保有率および薬剤耐性菌保有率を比較した結果、民家や畜産農場のある地域で有意に高い薬剤耐性菌の保有率が見られた。これは、人間の生活(農畜産業を含む)で過剰もしくは不適切に使用された薬剤の環境への流出が原因であると推察されるが、その詳細はまだ明らかにされていない。 現在は、薬剤もしくは薬剤耐性菌の環境への影響を調べるため、ヤンバルの2地域における環境試料(土、水など)における大腸菌保有率およびその薬剤耐性について調査研究を進めている。 さらに同2地域におけるヤンバルクイナの腸内細菌叢に関して、次世代シーケンスを用いた16SrRNA遺伝子解析を行い、生息地域別に特異的な腸内細菌を検索することで、将来的な繁殖保護に役立てることを目的としている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
野生ヤンバルクイナにおける大腸菌保有率とその薬剤耐性については、48検体採取し、大腸菌保有率65%、またその薬剤耐性率が45%であるというデータを得ることができた。さらに、生息環境別では、民家や農場近辺では大腸菌保有率が73%、森林地域では58%とどちらも高い保有率を示したが、薬剤耐性率に関しては、民家地域で73%であったのに対し、森林地域では20%と大きな差があることを確認した。これはヒトの生活において使用された薬剤もしくはそれによって発生した薬剤耐性菌が自然環境に影響していることが推察される。そこで、さらにそれらの地域における環境試料(土壌や水)を用いて同様の解析を進めることで、環境の汚染状況を知ることができると考え、試料の採取及び解析を進めている。また、採取したヤンバルクイナの糞便試料から次世代シーケンスを用いて腸内細菌叢(糞便内細菌叢)の比較解析を行っている。まだ各地域から数検体ずつしか解析に供していないため、腸内に占める優先菌種などのデータは出ていないが、今後解析個体数を増やすことで何らかの傾向をみることができると考えている。この研究には年ごとの追加データが必要となるが、3年間のデータを俯瞰的にみることによって、薬剤耐性菌による希少生物およびその生息環境がどれほど汚染されているかを知り、繁殖保護計画に役立てるという当初の目的を果たすことができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
各年度のサンプリングが必要となるため、今年度もヤンバルクイナ糞便およびその周辺の環境試料の採取を進めていく。さらに検出された菌株のDNA解析(パルスフィールドゲル電気泳動)を行うことで、菌株同士の遺伝的な関係を明らかにすることを目的としている。DNA解析を行うことで、環境試料とヤンバルクイナ本体の保有する菌株に遺伝的な同一性が見られた場合、少なくとも本種を介して薬剤耐性菌の伝播、拡散が行われている可能性、生息環境の汚染状況を知ることができると考えている。腸内細菌叢の解析に関しては、今後も生息地ごと、もしくは年毎の解析を進めていく予定であるが、ヒト生息環境、森林生息環境によって差異を確認することができれば、将来的な繁殖保護(生息地を含む)計画に非常に有用なデータとなると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画よりも細菌検出が進んだため、当初予定していた細菌の遺伝子検査を行わず、その検査費用が未使用となった。来年度、試料採取のための旅費および採取した環境試料の細菌検出、その薬剤耐性検査の検査キットおよび消耗品として使用し、今年度検出した菌株と環境試料から検出予定の菌株とをあわせた遺伝子検査の費用として使用予定である。
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