野生動物と家畜、野生動物と人間との接触機会が増えることにより生じる薬剤耐性菌の伝播状況およびそれに付随して生じる薬剤耐性菌による環境汚染について評価を行った。対象は国の天然記念物であるヤンバルクイナの保有する病原微生物とその薬剤耐性、さらに本種の生息するヤンバル地域における土壌や水といった環境試料に関しても同様に病原微生物の存在状況およびその薬剤耐性について評価した。1、初年度(2019年から2020年)はヤンバルクイナの糞便を採取し、その糞便のDNAを用いた種同定を行った。種同定結果から本種糞便と確定された試料から大腸菌を分離し、保有率と17種の抗生物質に対する薬剤耐性を調べ、本種の抗生物質における、もしくは薬剤耐性菌における汚染状況を評価した。その結果、人間の生活環境(畜産農場)付近で採取された糞便試料のおける薬剤耐性大腸菌保有率は森林環境(人間が生息していない環境)で採取された糞便よりも優位に高く、さらに薬剤耐性率に関しても有意に高く、人間の生息環境から生じる影響が示唆された。2、本種の生息する地域の土壌および水試料を採取し、前出同様大腸菌の保有率および薬剤耐性を調査した。その結果、環境試料においても、人間の生息環境付近で採取された試料における大腸菌および薬剤耐性率は、森林における環境試料と比較し有意に高く、ヤンバルクイナと同様の結果を得た(未発表)。さらに3、検出された薬剤耐性大腸菌のDNAを抽出し、ヤンバルクイナとその生息環境試料の遺伝子系統をパルスフィールドゲル電気泳動で比較した。その結果、ヤンバルクイナの糞便試料から検出された薬剤耐性大腸菌の一部の系統と土壌試料から検出された一部の系統の泳動パターンが完全一致した(投稿中:未発表)。さらにヤンバルクイナの腸内細菌叢についても次世代シーケンスを用いて解析を行い、生息地による差異を解析した(未発表)。
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