狩猟鳥に指定されているキジ科鳥類の放鳥初期から現在に至る遺伝的多様性の変遷を明らかにするために、約90年前に日本各地で採集された標本(過去の個体群)と現生個体群の両方のミトコンドリアDNAの一部を比較する研究をおこなった。標本は、森林総合研究所所蔵の206点の標本を使用した。2022年5月時点で、96点の標本からDNAが得られた。その内86個体のDNA配列が得られた。現生個体群は127個体の配列を得た。約90年前の標本は、現生個体群に比べてハプロタイプが地域ごとにまとまっている傾向があった。一方、現生個体群は複数のハプロタイプがモザイク状に分布していた。この結果は放鳥の影響によると考えられ、過去に互いに遺伝的に異なる個体群が生息する地域間でそれぞれの個体群が別の地域に放鳥されたことを示唆する。コロナ渦の影響により現生個体群のサンプル収集に遅れがあり、日本鳥学会編日本産鳥類目録第7版で区別されているすべての個体群のサンプルを得られなかったものの、当初の研究目的を大いに達成する成果を得ることができた。次に亜種の遺伝的差異について検討した。亜種間で明確な遺伝的差異は見られなかった。一方、島では特異的なハプロタイプが見つかった。この結果は、形態による亜種分類に加えて、遺伝解析を加えて亜種分類を再検討する必要性を示唆する。本研究は標本を用いることで、これまで不明であったキジ科鳥類の日本列島における本来の遺伝構造の復元に大いに近づいた。
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