本研究は北海道旭川市の河川植生の規模が異なる3つの河川(石狩川,忠別川,牛朱別川)に生息する頸吻亜目昆虫相の調査を行い,山間部から都市部にかけての分類学的多様度・類似度がどのように変化を調べることで,都市部にける河川敷の生態系ネットワークを考察するものである.前年までに河川敷への個体群供給地(旭川市嵐山地域)と2つの河川(石狩川,忠別川)の昆虫相調査を行った.最終年度には最も小規模な河川である牛朱別川の昆虫相調査を完了した.調査対象の昆虫は半翅目頸吻亜目類(セミ,ヨコバイ,ウンカなど)とした.この昆虫群は植食性で,種ごとに特定の寄種植物をもつため,生息環境ごとに特有の種組成をみせる.また,日本全土から約1000種が知られており,限られた調査区域からも多数の種を得ることができるためである. これら3つの河川および個体群供給地の植生規模や周辺の環境要因(都市化率,土地利用区分など)をGISを用いて数値化し,昆虫相多様性,河川植生規模,周辺環境要因の相関を検討した.結果,昆虫相の多様性は河畔植生規模に比例し,一定以上の河川植生規模になると河川周辺が極めて都市化された場合でも種多様性をある程度は保持できる可能性がある.また生態的回廊の要所に設けられた中核地(大規模な公園や緑地)が担う生物多様性保持機能の役割が大きいことも改めて確認された.またこれら調査に付随して,北海道新記録となる昆虫や,分類学的に新知見となる種が確認された.
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