研究課題/領域番号 |
19K06105
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
原科 幸爾 岩手大学, 農学部, 准教授 (40396411)
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研究分担者 |
出口 善隆 岩手大学, 農学部, 准教授 (40344626)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | エコロジカルネットワーク / ニホンリス / 都市緑地 / コリドー / 遺伝的多様性 |
研究実績の概要 |
調査対象地の都市緑地5か所で計23頭のニホンリス(以下,リス)を捕獲し,耳介切除等によるDNAサンプルの採取を行った。採取したDNAサンプルは現在,冷凍保存している。遺伝的多様性の評価では,解析手法を確立するため,血縁関係が明らかになっている飼育下個体14頭(オス3頭,メス11頭)の解析を予備実験として行った。盛岡市動物公園にて飼育しているリスの血液からDNAの抽出を行い,抽出したDNAの解析を解析業者に委託した。解析方法は解析業者と協議し,一塩基多型(SNPs)を使用したMIG-seq法を用いることとした。次世代シーケンサによってSNPsを読み取った結果,一定量のSNPsを読み取れることが確認できた。SNPsを用いた遺伝的多様性および血縁関係に関する解析は現在実施途中である。 リスの緑地間移動実態および移動経路の解明では,2か所の都市緑地で捕獲した6頭(オス3頭(うち亜成獣個体2頭),メス3頭)にVHF発信機を装着し,追跡調査を行った。追跡調査の結果,行動圏はオスで10.8~24.3 ha,メスで0.8~2.7 haだった。緑地間移動はオス3頭で確認し,その総数は113回だった。また,緑地外への移動としてメス1頭が民家の庭木と緑地との往来を9回確認した。最も多く緑地間移動を確認できた月は8月だった。また,移動した時間帯は日の出から正午にかけて多かった。しかし,その多くが決まった緑地間であり,その緑地間距離は約30 mで街路樹の植栽がされていた。また,幹線道路で分断された緑地間の移動も確認できたが,全てオスの亜成獣2頭によるものであった。GPS首輪は当初の予定では2種類使用する予定であったが,重量等のリスへの装着時の負荷を考慮してより軽量の機器を使用することとした。また,装着方法の検討を行い,従来の首輪型に加工する方法と生体用接着剤を用いる方法の2種類を試みることとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では,2019年度にGPS首輪による追跡調査を実施する予定だった。しかし,使用するGPS首輪の再検討および納入に時間を要したため,リスが頻繁に捕獲される5月から7月にGPS首輪を用意することが出来なかった。そのため,GPS首輪による追跡調査は次年度以降実施することにした。遺伝的多様性の評価では,解析業者の変更およびDNA抽出作業を新たに実施することになったため,遺伝子解析全体の行程が遅れた。しかし,作業フローは既に確立し,2020年度の作業開始には2019年度分の作業が終了する見込みである。また,当初の予定よりも多くのDNAサンプルの採取が出来ていることから,遺伝的多様性の評価全体でみると,当初の予定通り3年間で達成できると考えられる。VHF発信機による追跡調査は,当初の想定よりも多くの緑地間移動を確認しており,予定以上に進展して実施することが出来ている。そのため,研究全体としては,当初の計画通り3年で達成できる見込みではあるが,GPS首輪および遺伝子解析が当初の予定よりも遅れていることから,当初の計画よりも「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,リスの緑地間移動実態・移動経路の解明とコリドーの機能評価について,引き続きVHF発信機による追跡調査を行うとともに,2019年度に実施できなかったGPS首輪による高頻度追跡調査を実施する。また,日の出から正午にかけて多くの緑地間移動を確認したことから,VHF発信機とGPS首輪による測位で,より多くの緑地間移動を確認するためにこの時間帯に測位を多く行うことを検討している。更に,コリドーの機能評価について,現在までに得られた結果から,土地利用毎にランダムウォークモデルの移動確率の重みづけによる定量的評価の検討を2020年度から実施していく。 遺伝的多様性の評価では,2019年度に捕獲を実施した緑地では十分なサンプルを採取できたため,残りの調査対象地での捕獲およびDNAサンプルの採取を実施していく。また,飼育下個体を用いて確立した手法を野外捕獲個体に適用し,各緑地の遺伝的多様性および血縁関係の解析を実施していく。野外捕獲個体の解析は全調査対象地での捕獲が終了してから一括して実施することで効率的に行っていく。
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