都市緑地におけるリスの追跡調査を継続して実施した。また,本年度は新たに発信機の装着は行わず,令和3年6月にこれまで発信機を装着した個体を再捕獲して発信機を回収した。また,昨年度得られた結果からGPS首輪の測位精度ではリスの緑地間移動を詳細に把握することが困難であったことから,GPS首輪の新たな装着は行わなかった。 令和3年度までに追跡した個体のうち,緑地間移動を行う個体はオスが有意に多く,緑地間移動割合もオスの方が有意に高かった。1ヶ月以上追跡できた成獣オスの測位データをもとにリスの緑地間移動頻度について解析した結果,展葉期(4~6月)に緑地間移動頻度が高くなり,樹冠開放期(11~3月)に低くなることが明らかになった。この要因として,餌資源による影響と捕食リスクの回避による影響が考えられた。特に,交尾期(1~3月)にあたる樹冠開放期には緑地間移動頻度が低下したことから,成獣の緑地間移動は交尾に伴うものではないと考えられた。また,亜成獣期間も追跡した個体は全て緑地間移動を行い,その後の成獣期間も追跡できた個体の多くは捕獲緑地とは別緑地を主に利用した。緑地間移動が主に行われた箇所は街路樹が植栽されており緑地間の分断距離が短い緑地間だった。一方で,幹線道路で分断された緑地間では成獣メス1頭(亜成獣期間と成獣期間ともに移動)と亜成獣2頭のみが緑地間移動を行った。 遺伝解析では,5つの都市緑地群で捕獲した個体を対象に解析したが,このうち,山塊部に近いあるいは他緑地群との分断距離が短い4つの緑地群では個体間での遺伝的な関係が認められた。一方で,他緑地群との分断距離がキタリスの分散距離より長い緑地群では他緑地群との遺伝的な関係は認められなかった。 以上のことから,本調査地の都市緑地では,亜成獣の緑地間移動によって遺伝子交流がもたらされていると考えられた。
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