森林の林床の土壌動物は、樹幹部に着生する植物やコケ類を移動経路・隠れ場所として利用することで、樹上へと分布を拡大していると予想される。2021年度は、樹幹部を利用する捕食者(地表性アリ類など)の「捕食作用」に着目し、粘土で作成した疑似蛾類幼虫を樹幹部に設置し、それらに対する噛み跡を見ることで、捕食作用を定量化した。本年度では、1)どのような環境条件が樹幹部での捕食作用に関連しているのか、2)つるの着生の有無が樹幹部における捕食作用に影響するのか、について検証するための調査を実施した。 1)の調査では、1haプロットを100個の10m×10mの区画に区分し、各区画における地上部・地下部の環境要因と無脊椎動物による地上部・地下部の生態系機能(地上部:捕食作用、地下部:リター分解)の関連を検証した。調査の結果、季節・地形が樹幹部における捕食作用と関連していた。また、林床においてリター分解に対する大型土壌動物の貢献度が高い環境では、樹幹部におけるアリによる捕食頻度が小さかった。これは、地表性アリ類は林床で餌(大型土壌動物)が得られるため、探索範囲を地上部まで拡大しないためと考えられた。 2)の調査では、人工つる(麻ロープ)の太さを変えた処理区および対照区(つる無し)を設定し、人工つる設置2ヶ月後に、疑似蛾類幼虫を樹幹部に設置し、捕食作用を定量化した。調査の結果、木性つるを模したサイズのつるがあると、樹幹部での捕食作用は低下する傾向がみられた。これは、樹幹部に障害物があることにより、捕食者の餌発見効率が低下したことを示唆している。
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