研究課題/領域番号 |
19K06122
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
阿部 晴恵 新潟大学, 佐渡自然共生科学センター, 准教授 (60462272)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ポリネーターシフト / ツバキ属 / ユキツバキ / ヤブツバキ / サザンカ / 花形質 |
研究実績の概要 |
日本に分布するツバキ属ツバキ節のヤブツバキとユキツバキについて、近縁種を含めた解析を行うことで、これらの系統関係を検討した。次に、日本列島、朝鮮半島、中国大陸の沿岸部、台湾に分布するヤブツバキのデモグラフィー解析を行った。ツバキ属の多くは中国南部を中心に多様化しており、ヤブツバキはこの属の分布の北限であるため、大陸から渡来し日本で種分化したものと考えられる。しかし、現集団がどのような分布変遷をたどってきたのかは明らかになっていないため、広域分布種の歴史的な変遷を明らかにすることは、日本の地史を考える上でも重要である。 cpSSR8座とMIG-SeqによるSNPsの解析から、ほぼ一致した結果が得られ、遺伝的構造は南方寄りと北方寄りのヤブツバキ、およびユキツバキの3つのクラスターに分けられた。中国の近縁種を含む3種の系統関係を推定したところ、ヤブツバキはユキツバキと中国の近縁種Camellia chekiangoleosaよりも派生的な位置づけとなった。ADMIXTURE1.3.0を用いてヤブツバキ種内の遺伝的構造を推定したところ、(1)日本の北寄り集団と(2)日本の南寄り集団、(3)中国沿岸と韓国の集団、(4)沖縄と台湾の集団に分けられた。それらの集団間の交雑個体を除外し、DIYABCによるデモグラフィー解析を行ったところ、まず、沖縄・台湾の集団と日本の北寄りの集団が分岐し、その後日本の南寄り集団が北寄り集団から分かれ、さらに最終氷期後に中国・韓国集団が南寄り集団から分かれたと推定された。つまり、中国と韓国の集団は日本の南寄り集団から大陸へ南下した集団と予測され、生息適地推定の結果とも一致した。また、日本の北寄り集団は、一般的に最終氷期に南下した集団から、その後の間氷期に北上した派生的な集団と考えられることが多かったが、むしろ北寄り集団は本州に遺存する祖先的集団であることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画では、日本及び大陸のツバキ属を対象に網羅的な遺伝解析を行い、さらに花形質やポリネーターの観察データに基づいて、総合的にツバキ属の種分化を検証することを目的としていた。しかし、コロナ禍において大陸での調査が出来なかったため、中国大陸との相互移入の可能性が高い南西諸島を中心としたサンプリングを行い、日本国内でのツバキ属の種分化と中国大陸とのかかわりについて評価した。その結果は、第69回日本生態学会での発表およびFrontiers in Plant Scienceの特集号Forest Tree Conservation Genomicsへの投稿予定である。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度予定していた、中国(もしくはベトナム)での生態調査を行い、さらに中国およびベトナムに分布するツバキ属の分子系統を整理することで、ポリネーターシフトに基づくツバキ属の種分化について考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため、研究計画の大部分の予算で予定していた海外渡航(中国)が出来なかったため、2022年度に繰り越しをし実施する予定である。
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