クローナル植物は、森林の植物群集の重要な構成員であり、森林生態系の動態に重要な役割を持つと考えられる。本研究では、個体のDNAのメチル化状態を調べることによって、クローナル植物の群落の形成過程を推定する方法の開発をめざした。 本研究では様々な森林において優勢な林床性クローナル低木であるヤブコウジArdisia japonicaを研究材料として調査・実験を行ってきた。ゲノム情報を元に分離能の高いマイクロサテライトマーカー12個を開発し、それらを利用してジェネット(遺伝的個体)を識別して解析を行った。9 x 10 m調査区においては6つのジェネットに属するラメットが7~29%を占めており多様性の高い様相を示していた。1.3 x 1.7 kmの広い調査区のサンプリング箇所の73%を上位3つのジェネットが占めていた。この優勢なジェネットの範囲は半径1 km程度にもなり、地下茎の伸長の速度から概算すれば、種子の発芽から数百年~数千年の期間にわたり、生息していたと考えられる。このような高寿命・巨大なジェネット中でのジェネティックな分化については今後明らかにしたい。 蛍光プライマーによる高効率なMSAP(メチル化感受性増幅断片長)法によりラメット間のDNAメチル化遺伝子座の変異を解析した。地下茎でつながった、系譜を確認した5つのラメットの当年葉と前年・前々年葉について。当年葉と比べ、前年葉、前々年葉のDNAメチル化の違いは大きかった。しかしながら、いずれもラメットの系譜とDNAメチル化の関係性は見いだされなかった。したがって、少なくとも小スケールにおいてはDNAメチル化プロファイリング法の開発には至らなかった。巨大ジェネット中でのDNAメチル化の変異の様相と要因について今後明らかにしていく。
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