研究実績の概要 |
代表者らがこれまでに渓流水中ストロンチウム(Sr)への火山灰寄与を研究してきた栃木県雨巻山を対象地域として、本課題では植物のSr同位体比を調査した。その結果、ササがアオキよりも火山灰の値に近いこと、スギ・ヒノキ・コナラと比較しても、ササはこれら樹木と同程度またはそれよりも火山灰に近く、調べたなかで最も火山灰の値に近い植物であることがわかった。したがって、ササは、植物の栄養である塩基カチオン(Ca, Mg, Kなど) が火山灰から供給されている場合にその影響がSr同位体比(87Sr/86Sr)に現れやすい植物であると考えられた。 2022年度は、前年度に引き続き、土壌への火山灰の混入程度と地質(母岩)が異なる8地点において、森林の笹および渓流水の87Sr/86Srを分析した。どの地点も、母岩の方が火山灰よりも87Sr/86Srが高いと確認済であること、笹も渓流水も土壌に混入した火山灰由来のSrと母岩由来のSrを含んでいるが渓流水の方が母岩由来成分と長時間接触した地下水を含むと考えられることから、渓流水の方が87Sr/86Srが高いと予想した。分析の結果、全8地点で渓流水の方が笹よりも高い87Sr/86Srを示した。このうち4地点では、笹の87Sr/86Srは、大気降下物由来の87Sr/86Srより低かったため、火山灰の寄与があることが明らかであった。塩基カチオン供給能が低いチャートや花崗岩が母岩である地点だけでなく、塩基カチオン供給能が高いハンレイ岩の地点でも火山灰の寄与が認められたことから、「塩基カチオンが豊富な地質の地域であっても火山灰から供給された塩基カチオンが森林の植物に利用されている」と示すことができた。
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