研究課題/領域番号 |
19K06136
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研究機関 | 国立研究開発法人森林研究・整備機構 |
研究代表者 |
木村 恵 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所 林木育種センター, 主任研究員 等 (20436520)
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研究分担者 |
井上 みずき 日本大学, 文理学部, 准教授 (80432342)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 乾燥耐性 / リカルシトラント種子 / 難貯蔵種子 / オーソドックス種子 / 貯蔵可能種子 |
研究実績の概要 |
本研究は種子の乾燥耐性と環境要因との関連性を調べ、樹木の環境適応の一端を明らかにする。具体的には研究期間内でa)様々な樹木種子の乾燥耐性を種間で比較し、種子の形質から高精度で乾燥耐性を推定するモデルを作成する。またこのモデルを活用し、b)同種内の生育環境の異なる集団間で乾燥耐性と発芽タイミングを比較し、環境要因との関係を明らかにすることを目指す。 外国産樹種で作成された既存の推定モデル(Daws et al. 2006 Ann Bot)の適合性知るため、国内に生育する93樹種について種子の乾燥耐性を予測できる指標として報告されている「種子の乾燥重量に対する種皮の割合(seed coat ratio, SCR)」を計測した。さらに、Kew植物園のデータベースから種または属レベルの乾燥耐性を調べた。Dawsらの推定モデルを用いて国内樹種の形質データから種子の乾燥耐性を推定した結果、うまく推定できない樹種が存在することが分かった。そこで、国内の樹木に適合した推定モデルの改良について検討した。調査樹種を追加して合計126樹種について、種子形質としてSCRの他に種子の扁平率を計測した。また、母樹の生息地が分かる43種については、生育環境のデータとして種子採取地の年平均気温、年降水量、最深積雪量などの気象データを追加し、これらの変数が推定モデルに利用可能かどうかを検討した。この43種の乾燥耐性の有無を目的変数とし二項分布ロジスティック回帰を行ったところ、SCRと年平均気温のみが選択された。SCRが1に近いほど、つまり種皮が厚いほど、また気温が低い地域ほど乾燥耐性を持つ傾向が見られた。この成果は第67回日本生態学会大会にて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では研究期間内でa)様々な樹木種子の乾燥耐性を種間で比較し、種子の形質から高精度で乾燥耐性を推定するモデルを作成すること、またこのモデルを活用してb)同種内の生育環境の異なる集団間で乾燥耐性と発芽タイミングを比較し、環境要因との関係を明らかにすることを目指している。 「a)乾燥耐性推定モデルの作成」については、林木ジーンバンクで保存されている種子や、新たに採取した種子を用いて、合計126種について種子の形状、乾燥重量、SCRを計測した。また、Kew植物園のデータベースをもとに属や科レベルで乾燥耐性を確認した。126種のうち採取地が明確である43種については国土数値情報から三次メッシュ気候値を入手し、生育環境のデータとして種子採取地の年平均気温、年降水量、最深積雪量などの気象データを調べた。この43種の乾燥耐性の有無を目的変数とし二項分布ロジスティック回帰を行い、SCRと年平均気温によって乾燥耐性を推定するモデルを構築した。この成果は第67回日本生態学会大会にて発表しており、当初の予定通り研究は進んでいる。今後は気象情報や実際に測定した乾燥耐性のデータを加味し、さらなるモデルの検証を行う予定である。 「b)同種内での乾燥耐性・発芽タイミングの集団間比較」については、生育域の広いバラ科ウワミズザクラ属を対象に、北海道や新潟、宮城、茨城の4集団の複数母樹から種子採取し、乾燥耐性と発芽タイミングについて予備的な調査を行った。このとき、種子の成熟時期が地域によって異なっており、適切な時期に試料を採取するのが難しかったことから、次年度以降のスムーズな採取を目指し、採取候補地を選定するためウワミズザクラの所在地情報について調べた。このように次年度の工程も予定通り進むよう準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
「a)乾燥耐性推定モデルの作成」については、日本国内の樹木に特化した推定モデルの改良が行われたが、この時点で気象データを利用できる樹種が43種と限られていた。採取時の資料に当たることにより、さらなる気象データの補填を行い、モデルのさらなる改善を目指す。また、乾燥耐性のデータはKew植物園のseed date informationを基にしているが、対象樹種の情報が限られており、同属他種の情報を用いてモデルの作成に用いてるいる場合もある。推定の精度を上げるためにも、実際に種子の乾燥実験を行うことでその樹種の乾燥耐性を明らかにし、モデルの作成に用いる。 「b)同種内での乾燥耐性・発芽タイミングの集団間比較」については、ウワミズザクラの所在地情報から採取候補地を選定し、効率的な種子の採取スケジュールを検討する。種子の成熟時期が集団間で重なるなどして、自身での種子採取が難しい場合には採取協力者を雇うなどして、効率的な採取を目指す。樹木には種子の豊作年、凶作年が存在することから、凶作年の場合に備えてウワミズザクラの他にイタヤカエデなどについても採取候補地の選定を進め、種子の採取に備える。採取した種子については多樹種のデータで作成した推定モデルを利用したり、実際に乾燥耐性実験を行って種子の乾燥耐性を評価する。また、インキュベータでの発芽実験から発芽タイミングを明らかにする。これら種子特性について同種内の集団間で比較し、生育地の環境要因との関連について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
様々な樹種の種子について形状を計測するにあたり、林木ジーンバンクのコレクションを利用できただけでなく、琉球大学久保田研究室の協力により琉球大学と九州大学が採取していた種子の一部を提供いただき、計測することが出来た。これにより、当初予定していた種子の採取旅費や採取のための賃金、消耗品費をセーブすることが出来た。また新型コロナウイルスの感染防止のため、登録していた学会大会が開催されず大会参加のための旅費が使用できなかった(ただし、登録した講演内容は発表扱い)。 その一方で、同一樹種の集団間比較のための事前調査から、異なる集団の種子の成熟時期は連続的であることから、複数の地域から同樹種の種子を採取するには、事前に採取候補集団の目星をつけ、限られた期間内で効率的に採取する必要があることが分かった。種子の成熟時期はその年の気候に左右されることから、適切な時期に採取できるよう、当初の予定以上に成熟時期の確認に要する費用や採取協力者への賃金の確保が必要だと考える。前年度の未使用分はこれらの種子の採取費用に充てたいと考えている。
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