日本国内には2種の黒トリュフ、Tuber himalayenseとT. longispinosumが自生する。2種は樹木と共生関係をもつ菌根菌で、日本列島がユーラシア大陸から分離する以前に樹木や動物と共に移入し、列島で分布拡大したと考えられるが、その過程は不明である。本研究の達成により、きのこ類の生物地理、共生相手の日本の森林樹木種の多様性解明の上でも重要な知見となる。そこで、日本の黒トリュフの起源および2種の遺伝的多様性と集団遺伝構造を明らかにすることを目的とする。さらに2種は食用可能で、国内で栽培化を進めていることから、発生地において菌株資源の収集を行うとともに、将来性を考慮した栽培好適地を提案する。 およそ500個の子実体を30都道府県から収集した。アジアクロセイヨウショウロの北限は北海道で、南限は鹿児島県であることが今回の野外調査や博物館に収蔵されている標本の調査で明らかになった。一方のイボセイヨウショウロも同様の分布パターンを示した。両種ともに東北以北ではミズナラやクリを主要な菌根共生宿主とするのに対し、九州地方ではシラカシなど常緑広葉樹が主要な宿主となる場合が多いことが明らかになった。 採取した全てのの子実体標本に対してMIG-seq法によるゲノム中の一塩基多型解析を行い、黒トリュフには明瞭な地理的遺伝構造があることが明らかとなった。他の動植物の集団遺伝解析の結果と同様に、フォッサマグナを境界として主要な遺伝的構造が決まる可能性があること明らかとなった。この成果は、今後トリュフ栽培を行っていく上で、菌株の移動制限、あるいは栽培適地を提案する上で必要となる成果である。
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