研究課題/領域番号 |
19K06138
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研究機関 | 一般財団法人日本環境衛生センターアジア大気汚染研究センター |
研究代表者 |
浦川 梨恵子 一般財団法人日本環境衛生センターアジア大気汚染研究センター, 生態影響研究部, 主任研究員 (40776720)
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研究分担者 |
太田 民久 富山大学, 学術研究部理学系, 助教 (60747591)
申 基チョル 総合地球環境学研究所, 研究基盤国際センター, 准教授 (50569283)
佐瀬 裕之 一般財団法人日本環境衛生センターアジア大気汚染研究センター, 生態影響研究部, 部長 (20450801)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 越境大気汚染物質 / 大気沈着負荷量 / 森林土壌 / 鉛同位体比 / ストロンチウム同位体比 / 物質循環 |
研究実績の概要 |
大気沈着負荷により森林生態系の物質循環が攪乱され、生態系サービスに悪影響がおよぶことが懸念されている。わが国では局所的に、人為起源の大気沈着増加にともなう物質循環の異常(たとえば、窒素飽和現象)が発現している森林流域の存在が指摘されているが、日本列島全体での解明は進んでおらず、広域スケールでの影響解明が求められている。本課題では、ストロンチウムと鉛の安定同位体比が長期の大気沈着の指標となることに着目し、日本の多数地点で採取された林床有機物(リター層)と土壌の分析を行ってきた。 土壌およびリター層に含まれるストロンチウム同位体比の地理的分布特性については、以下の結果が得られた(Urakawa et al., 2023)。すなわち、ストロンチウム同位体比(87Sr/86Sr)は地質年代の古い岩石を母材とする地点で高く、比較的年代の若い火成岩を母材とする地点で低かった。また、中国の砂漠地帯を発生源とする越境風成塵や海塩の影響が強い日本海側の地点で高くなる傾向もみられた。統計解析の結果、同位体比に影響を与える環境要因として30年間の大気沈着量の平均値(Morino et al., 2011)、および地質条件が選択された。さらに、土壌の生物化学的性質の地点間変動にどのような要因が関わっているかを明らかにするために、既存のパスモデル(Urakawa et al., 2016)にSr同位体比を組み入れた解析を行った結果、リターと土壌のSr同位体比は土壌の酸性度および塩基濃度と有意な関係がみられたものの、土壌微生物が担う窒素形態変化への間接影響は有意ではなかった。以上を総合して、地質と越境大気汚染の影響を示唆する大気沈着が、Sr同位体比を介して土壌の酸性度や塩基濃度に影響を及ぼしていることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度に投稿した土壌およびリター層に含まれるストロンチウム同位体比の地理的分布特性に関する論文は受理され、Biogeochemistry誌で発表された(Urakawa et al., 2023)。 また2022年度は予定通り、環境省の酸性雨モニタリングサイトで採取された約20年分の土壌試料約60サンプルについて、可給態鉛および交換性ストロンチウムの濃度と同位体比の分析を実施した。その結果、ストロンチウム同位体比(87Sr/86Sr)は主に各地点の地質条件に応じた固有の値をもち、経年変化はほとんどみられなかった。一方、鉛同位体比(206Pb/207Pb)は2005~2010年にかけて各地で、中国の石炭の値(Komarek et al. 2008)に近い1.16~1.17に収束する傾向がみられた。2000年代中頃は中国における大気二酸化硫黄排出量がピークに達した時期であり、風下に位置する日本の降水にも影響を与えたことが明らかにされている(Ihatashi et al., 2018)。このことから土壌にも、大陸からの越境大気汚染流入の影響が鉛同位体比の変化として記録されていることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
補助期間を1年延長し、2023年度も本課題を継続する。事業最終年度となる2023年度は、これまでに蓄積した鉛同位体比のデータの解析に集中して取り組む。具体的には、土壌中の可給態鉛の抽出法について、2019年度に実施した逐次抽出の結果をもとに手法論文化する。また、日本全国の多地点における土壌の鉛同位体比データをもとに、リファレンスデータや環境・土壌化学性に関する既存のデータと組み合わせた解析を行い、鉛同位体比の地理的分布特性に関する研究成果をまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響により、2022年12月の第12回地球研同位体環境学シンポジウムおよび2023年3月の日本森林学会大会がいずれもオンライン開催となり、旅費が加算されなかったため次年度使用額が生じた。補助期間を延長し、2023年度末で研究経費を使い切る見込みである。
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