研究課題/領域番号 |
19K06139
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
小野 清美 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (50344502)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 常緑広葉樹 / 落葉広葉樹 / 低温 / 光合成 |
研究実績の概要 |
コナラ属の常緑樹であるアラカシは暖温帯に、落葉樹であるコナラは暖温帯から冷温帯に広く分布する。環境制御下でアラカシの実生とコナラの小さな苗木を栽培し、これらに同時に、段階的に温度を低下させる低温処理をかけた。日長は一定とした。 光合成能力、光合成系がどれくらいストレスを受けて応答しているかの指標とされる光化学系IIの最大量子収率(Fv/Fm)の値、クロロフィル量の指標としてのSPAD値が、低温処理の過程で、どのように変化するのかを調べ、低温ストレスに対する応答に、同じコナラ属の常緑広葉樹と落葉広葉樹との間に違いが見られるのかを調べた。 低温処理の過程で、冷温帯にも分布するコナラではFv/Fmが緩やかに低下し、暖温帯に分布するアラカシの方が低温ストレスを受けやすいことが示唆された。さらに温度を低下させると、コナラで急激なFv/Fmの低下が起こった。落葉樹の葉の老化や落葉に対して、日長の短縮が影響するという報告があるが、日長の短縮が行らなくても、気温の大きな低下に応答して、コナラは紅葉し、さらに落葉した。 光合成能力に関しては、暖温帯に分布する常緑広葉樹では冬季に炭酸固定系のキーエンザイムであるルビスコ量を増やして、光合成活性の低下を補う応答が見られるという報告がある。今回の実験では、ルビスコ量の測定は行っていないものの、低温処理による光合成能力(飽和光下での光合成活性)の増加は見られず、予想とは反する結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までに常緑広葉樹アラカシ、アカガシの苗木を用いて、環境を制御して昼10度夜8度の低温処理をかけたときには、昼22度夜18度(常温)での生育に比べて、新たな展葉が抑えられ、古い葉の落葉が抑えられた(葉寿命が延びた)。生育環境が変化しない場合には、シンク・ソース関係が葉寿命の決定に大きく関わることが示された。 アカガシ苗木では低温処理によって常温のままの個体より、葉のFv/Fmが低下する傾向が見られたが、葉齢による大きな違いは見られなかった。一方、自然環境下で気温が氷点下まで低下する場合には、当年葉よりも一年葉でFv/Fmが大きく低下する傾向が見られた。気温の低下が大きい場合には、光合成能力の低い古い葉の方が、低温ストレスの影響を受けやすいことが示唆された。極端な低温(自然環境の場合には+短日)の場合には、低温ストレスも葉の枯死、落葉の原因になることが示された。 今年度は、環境制御下での低温処理を、常緑広葉樹と落葉広葉樹の葉に同時にかけることができた。サンプル数が十分であるとは言えないものの、段階的に温度を低下させる低温処理に対して、常緑広葉樹と落葉広葉樹の葉とで応答に違いがある可能性を示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度行った、アラカシ実生とコナラ苗木を用いた実験では、常温と低温処理の個体、各3個体ずつの結果を比較した。個体によってFv/Fmの変化の程度は異なったものの、温度の低下が大きくなると、常温と低温処理個体の間には、はっきりとした差が見られるようになった。ただ、サンプル数は多いとは言えないので、反復して実験を行いたい。光合成系の色素を分析するための試料も一部取っているので、解析を行いたい。 苗木でも、気温が氷点下にまで低下する条件では、常緑広葉樹の葉も葉齢が進んで光合成能力が低い葉ほど、低温ストレスに対して弱い可能性を示す結果が得られているが、シンク・ソース関係は複雑になり、個体の中の光環境も多様になってしまうが、葉齢が進んだ葉も得やすいことから、可能なら、苗木ではなく、成木でもそのような結果が得られるのか、実験をすることを検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度までの未使用額が大きかったこと、今年度もこれまでと同様に生態学会がオンラインで開催されたために、旅費を使用しなかったこと、環境制御実験に用いた低温実験室のランプの交換を行わなかったことなどのために、次年度使用額が生じた。 次年度に、実験試料を増やすための費用、測定に必要な機器のメンテナンスのための費用として使用したい。
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