研究課題/領域番号 |
19K06142
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
廣嶋 卓也 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (40302591)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 天然林 / 生存時間解析 / 樹木個体群 / 減反率 |
研究実績の概要 |
昨年度までに、東京大学北海道演習林の計95箇所の天然林固定プロットより、原生状態に近い保存林において、樹種構成、サイズ、枯死率などの観点から、本研究に適した成熟段階にあるプロットを4箇所(固定プロットNo.5203、5224、5225、5227)選定し、非破壊式年輪解析機器(RinnTech社製RESISTOGRAPH)を利用して、樹幹内にある年輪数を計測した。 今年度は、これら4プロットのデータに対し,3時期(10年間隔で、第1期は1989-1999年、第2期は1999-2009年、第3期は2009-2019年)の樹齢別本数分布・枯死率,平均樹齢等を求め,これら情報を利用して廣嶋(2006)の最尤推定法により、生存曲線を推定した。そして、樹種別の生存曲線の差違という観点から解析結果を取りまとめて考察し、国際誌へ論文投稿した(掲載済み)。解析の結果、針葉樹の主要樹種であるトドマツ、エゾマツの生存曲線には有意な差違が見られなかった。ただし、針葉樹、広葉樹の2グループの間では、1期、2期、3期のいずれにおいても有意な差違が見られた。そして針葉樹、広葉樹の平均寿命(針葉樹72年、広葉樹80年)を推定した上で、樹齢情報を胸高直径情報(針葉樹31cm、広葉樹36cm)に換算し、東京大学北海道演習林の天然林における伐採木の選定条件としての応用可能性を検討した。 また推定した針葉樹、広葉樹の生存曲線を利用して、将来の樹齢分布の変化を予測した。ここでは前提条件として生存曲線および総樹木本数の時間定常性(広義の法正状態)を仮定した上で、今後100年間の樹齢分布の経時変化を予測した。そして将来的に、針葉樹と広葉樹の樹齢分布の差違が小さくなり、また樹齢分布の形状が生存曲線に相似形の指数分布型に収束することを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では3年間にわたる4段階の研究計画を設定していた:1.既存のデータ収集、2.フィールド調査、3.データ解析、4.伐採木選定。このうち、4.伐採木の選定条件としての応用可能性について、未だ結論を得られておらず、1年間、研究期間を延長した上で、結論を導き、論文投稿まで達成する予定である。 1.データ収集(達成度100%):東京大学北海道演習林における計95箇所の天然林固定プロットより,原生状態に近いものを対象として,樹種構成,サイズ,枯死率などの観点から,本研究に適した成熟段階にあるプロットを選定する(達成) 2.フィールド調査(達成度100%):選定した固定プロットにおいて,経年測定データを参照し,生存木,枯死木を確認する。すべての個体について非破壊式年輪解析機器で胸高部の樹皮より(半径-2.5cm)の樹幹内にある年輪数を読み取り,各個体の「進界後」樹齢を決定する(達成) 3.データ解析(達成度100%):得られたデータより,10年間隔で,樹齢別本数分布・枯死率,平均樹齢等を求め,生存時間解析を行う。そして個体群の平均寿命や,樹齢別の平均余命を推定する。 4.伐採木選定の提案(達成度50%):平均寿命を超えた生存木,余命の短い生存木を老齢過熟木と見なし,伐採候補木として提案する。
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今後の研究の推進方策 |
伐採木選定の提案:上記「現在までの進捗状況」3.までを踏まえて,東京大学北海道演習林の天然林管理を事例として,平均寿命を超えた生存木,余命の短い生存木を老齢過熟木と見なし,伐採候補木として提案する。こうして樹齢・寿命情報に基づく合自然的な伐採木の選定という,新たな天然林管理のあり方を提案する。具体的には、3.までの解析を踏まえて、針葉樹、広葉樹の平均寿命(針葉樹72年、広葉樹80年)を、胸高直径情報(針葉樹31cm、広葉樹36cm)に換算し、東京大学北海道演習林の天然林における伐採木の選定条件としての応用可能性を検討している。応用可能性検証のために、北海道演習林における過去の針葉樹・広葉樹別の伐採木の胸高直径情報を収集し、針葉樹31cm、広葉樹36cmなる判定基準の妥当性を考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)物品費について,コロナウィルスの影響で野外調査が想定通りに実行できず、予定していた消耗品の購入を見送ったこともあり,余剰が生じた。国内旅費について,予定していた学会はコロナウィルスの影響で全てオンライン開催となったため、当初予定していた旅費が不要となり余剰が生じた。 (使用計画)今年度実行できなかった野外調査を実施し、そのために必要な消耗品を購入する。最終年度は、集大成としての成果発表を、可能であれば海外で行い,旅費の執行に務める。また論文のオープンアクセス化・出版費用を見込む。
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