本研究では、東京大学北海道演習林の計95箇所の天然林固定プロットより、原生状態に近い保存林において、樹種構成、サイズ、枯死率などの観点から、本研究に適した成熟段階にあるプロットを4箇所選定し、非破壊式年輪解析機器RESISTOGRAPHを利用して、樹幹内にある年輪数を計測した。昨年度までに、これら4プロットのデータに対し,3時期(第1期1989-1999年、第2期1999-2009年、第3期2009-2019年)の樹齢別本数分布・枯死率,平均樹齢等を求め,これら情報を利用して廣嶋(2006)の最尤推定法により、生存曲線を推定した。そして、樹種別の生存曲線の差違という観点から解析結果を取りまとめて考察し、国際誌へ論文投稿した。解析の結果、針葉樹の主要樹種であるトドマツ、エゾマツの生存曲線には有意な差違が見られなかった。ただし、針葉樹、広葉樹の2グループの間では、1期、2期、3期のいずれにおいても有意な差違が見られた。そして針葉樹、広葉樹の平均寿命を推定し、樹齢情報を胸高直径情報に換算し、東京大学北海道演習林の天然林における伐採木の選定条件としての応用可能性を検討した。 今年度(最終年度)は、推定した針葉樹、広葉樹の生存曲線を利用して、将来の樹齢分布の変化を予測した。ここでは前提条件として生存曲線および総樹木本数の時間定常性を仮定した上で、今後100年間の樹齢分布の経時変化を予測した。そして将来的に、針葉樹と広葉樹の樹齢分布の差違が小さくなり、また樹齢分布の形状が生存曲線に相似形の指数分布型に収束することを示した(国際誌へ論文投稿し、掲載済み)。最後に、本研究の成果を海外展開すべく、アジア2カ国(ブータン、マレーシア)の択伐天然林における樹齢データと直径分布データを現地収集し、樹齢-直径換算情報に基づく伐採木選定を試行した。
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