研究課題/領域番号 |
19K06144
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
小野 裕 信州大学, 学術研究院農学系, 助教 (00231241)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 団粒 / 森林土壌 / 土壌再生 / 孔隙組成 / 透水性 / 野外培養試験 |
研究実績の概要 |
野外条件下で団粒が回復するのかを明らかにする目的で,野外培養実験を行った。ヒノキ人工林内で採取したA層の団粒試料とH層の腐植試料を1mm以下に調整し,A層試料に対しH層試料を質量割合で0%, 20%で混合させ,メッシュ状の容器に充填して,上面に不織布と樹脂製のアミを敷き,培養試料とした(腐植0%試料,腐植20%試料)。試料採取を行った林内に試験区を設け,2条件の培養試料を必要数設置した。このうち。両条件の培養試料の1つには土壌水分センサと温度センサを設置した。また,試験区の周辺に雨量計3台と温度センサを設置し,林内の雨量と気温を観測した。 培養開始から5週目、12週目、21週目に試料を回収し,団粒分析,孔隙解析,土壌微生物活性,炭素・窒素量の測定等を行った。その結果,両条件の全期間において培養前より団粒百分率が増加したことが明らかになった。しかし培養5週では,両条件とも団粒百分率が増加し,団粒が再形成しているにもかかわらず、粗孔隙率や透水係数が低い値を示した。これは,培養5週までの期間で降水量が多く,雨滴衝撃によって孔隙が潰されたことが原因ではないかと考えられた。また,培養21週では,団粒の発達に伴って粗孔隙量が増加していたが,透水性は低い値を示した。この期間では,試料回収前に培養試料の乾燥と降雨による湿潤化が繰り返されており,スレーキングによって培養試料表面にクラストが形成されたことが影響したと考えられた。 以上から,野外条件下においても比較的短期間で団粒の再形成が可能であることが明らかになった。しかし,雨滴衝撃やスレーキングが粗孔隙の発達や透水性の向上を阻害することが推察され,これらの外的要因から土壌を保護する必要があると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響により,研究室への学生の立ち入りが制限されるなどしたため,当初計画していた野外培養実験の準備が遅滞した。そのため,当初の予定よりも2ヶ月程遅れて研究に着手し,2020年6月から野外培養実験を開始し,年度を超えて2021年4月に終了した。その結果,実験計画時点での予想よりも,団粒が早期に回復したことが明らかになるなど,野外での団粒回復に関する新たな知見が得られた。 2020年度に得られた研究成果に関しては,中部森林学会(2020年12月),日本森林学会(2021年3月)において口頭発表を行った(いずれもオンライン開催)。 以上から,実験開始が若干遅れたものの,実験自体は順調に進み,想定していたような成果が得られたことから,おおむね順調に進展したと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本課題におけるこれまでの研究から,明らかになったこととして, ①室内培養実験から,団粒の再形成には培養時の水分条件が影響し,湿潤,あるいは湿潤と適度の乾燥の繰り返し条件で団粒の再形成が進む ②野外培養実験から,野外条件下においても比較的短期間に団粒の再形成が進むが,雨滴衝撃やスレーキングなどが孔隙組成や透水性の向上を阻害する などがあげられる。これらの結果を踏まえ,今後は,野外における水分条件の差異が団粒再形成過程にどのように影響するかを明らかにする必要があると考えた。しかし,野外での自然降雨条件下において培養試料の水分条件を制御することは困難である。そこで,無降雨期間に土壌の乾燥が進みやすく,乾性型の土壌が出現する尾根部に試験区を設け,野外培養実験を行うことを計画している。試料の調整や腐植(H試料)の混合割合などは2020年度の培養実験と同様とし,恒常的に乾燥が進みやすい条件下での団粒再形成過程を明らかにしていく。 また,2020年度に野外培養実験を行った試験区近傍において,人為的に土壌を撹乱した新たな試験区を設け,無処理,枝条散布,リター散布などの処理を行い,団粒の回復程度にこれらの処理の違いがどのように影響するのかを検討する。 以上のような培養実験の結果と,2019・2020年度の成果をもとに,団粒の再生過程を明らかにし,団粒再生に必要な条件について検討し,本課題の取りまとめを行っていく予定である。
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