本州・九州の一部の中山間地域で栽培される原木シイタケの害虫キノコバエ類はしばしば大量発生し、大きな被害をもたらす。その有効な防除技術の開発のため、これら害虫キノコバエ類、特にナカモンナミキノコバエ(以下単にナカモン)の天敵群集として寄生蜂、造網性クモ類、鳥類を想定し、これらの群集組成と捕食圧を調査した。 2019年7月に大分県日田市の森林内のほだ場7箇所と周辺のスギ人工林4箇所、天然林4箇所を調査地とし、5つの方法(羽化トラップ、水盤トラップ、粘着シートトラップ、クモ類の巣網の獲物、スウィーピング)でキノコバエ類と寄生蜂を捕獲した。また、食害を受けた子実体から幼虫を採集し、容器内で成虫および寄生蜂の羽化させる羽化試験を2020年に行った。 ほだ場で発生するナカモンの直接の捕食者として寄生蜂とクモ類を確認した。しかし、当初計画した調査では、寄生蜂による寄生率が1~2割であり、調査全体で得られたこれらの個体数も少なかったため、本州などで計画外の羽化試験を行った結果、寄生率が4割に至ることがあることを確認した。コシロカネグモによるナカモンの捕食も1例を観察するのみであった。ナカモンの成虫が発生するよりも早い時期に活動している捕食者は鳥類とクモ類であった。主たる造網性クモ類であるコシロカネグモはナカモンが多く見られる3-5月にまだ幼若であり、ナカモンなどキノコバエ類の個体数抑制にどの程度寄与しているか不明であり、その効果もあまり高くないことが考えられる。ただし、クモの巣を模した粘着シートトラップで通算677個体採集されていることから、クモ類は潜在的に捕食圧が高いと考えられる。子実体が発生する時期のほだ場に飛来し、地表で採餌行動する鳥類の種類を明らかにしたが、ナカモンを選択的に捕食しているか不明であった。
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