研究課題/領域番号 |
19K06153
|
研究機関 | 国立研究開発法人森林研究・整備機構 |
研究代表者 |
大貫 靖浩 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (10353616)
|
研究分担者 |
鳥山 淳平 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (00582743)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 土層厚 / 土壌含水率 / 地下水位変動 / 平地乾燥常緑林 / 平地乾燥落葉林 / エルニーニョ現象 / ラニーニャ現象 |
研究実績の概要 |
カンボジア王国コンポントム州に位置する、極めて高い樹高を有する平地乾燥常緑林を研究対象とし、平地乾燥常緑林が立地する非常に厚い土壌層に着目して、熱帯モンスーン気候下の他地域よりも樹高が高くなるメカニズムや、異常な寡雨や平年を大きく上回るような多雨などの極端気象下での平地乾燥常緑林の維持機構を、降雨パターンと地下水位変動、深層土壌の水分保持能力の実測値を検証値として、長く厳しい乾季における樹木への潤沢な水供給メカニズムを解明する。 本年度も、新型コロナウィルス感染症拡大の影響で、当初計画していたカンボジアでの観測や測定が実施できなかった。地下水位測定については、土層の厚い平地乾燥落葉林に掘削した大型土壌断面の毎週1回の定点撮影により画像データを蓄積し、地下水位変動把握を継続した。2021年はラニーニャ現象が5月頃まで続いたがその後は消滅し、雨季の地下水位は前年よりも低かった。10月以降はラニーニャ現象の影響で降雨量が多く、12月まで前年同時期よりも地下水位は高かった。このように、定点撮影により土層の厚い平地乾燥落葉林の地下水位変化と、エルニーニョ・ラニーニャ現象との関係をある程度明らかにすることができた。 平地乾燥常緑林と平地乾燥落葉林の表層土壌含水率の季節変動、年変動を解析して、原著論文として公表した。その結果、表層土壌含水率は植生・土壌型・土壌の厚さ・地形に影響を受け、最も影響が大きかったのは土壌の厚さの違いであった。平年乾季の落葉林では下草が枯れ乾燥が進んでいるのに対し、常緑林では湿地が点在し、林床は湿潤な環境に保たれていた。一方、エルニーニョ現象が発生して極端な少雨となった年には、常緑林においても林床が極端に乾燥することが明らかになった。気候変動により降水量が激減した場合、厚い土層の貯留水分が減少して常緑林の生育に重大な影響を及ぼす可能性がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本課題は、カンボジア王国の平地乾燥常緑林と落葉林における大型土壌断面調査をはじめとする実測データの収集、および土壌水分移動シミュレーションによる長く厳しい乾季における樹木への潤沢な水供給メカニズムの解明を目的としている。 新型コロナウィルス感染症拡大の影響で本年度も現地へ渡航できず、当初計画していたカンボジアでの大型土壌断面観察、深度別土壌硬度・含水率測定が実施できなかった。地下水位測定については、対照地である近傍の土層の厚い平地乾燥落葉林で、大型土壌断面の毎週1回の定点撮影を前年度からカウンターパートに依頼して画像データを蓄積し、地下水位変動と樹木の展葉・落葉状況、下層植生の繁茂・枯死状況を把握した。また、土層の薄い平地乾燥落葉林と土層の厚い平地乾燥常緑林の、表層土壌含水率の季節変動・年変動について考察した原著論文を公表し、土層の厚さの違いが特に乾季の表層土層含水率に影響を与えていることを明らかにした。 以上のように、研究成果の一部として原著論文は公表できたものの、コロナ禍の現地への渡航が非常に困難な状況が続き、現地での実測データが取得できなかったため、本研究課題の進捗はやや遅れていると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
土層の厚い平地乾燥落葉林内の大型土壌断面観察を週1回の定点撮影により継続するとともに、樹木の展葉・落葉状況、下層植生の繁茂・枯死状況を把握し、地下水位変動との関係を解析する。現在まで蓄積した土壌水分データに、平地乾燥常緑林内のタワーで観測された蒸発散量の実測値をパラメータ化して加え、土壌水分移動シミュレーションにより、常緑林と落葉林双方の深層土壌層内の水分貯留量を算出する。常緑樹と落葉樹の樹高データの実測値を、既存の樹高データに加える形でさらに蓄積し、土層厚・土壌物理性・地下水位変化との対応関係を解析する。 現地への渡航がいつ可能になるか不透明な状況であるが、土層の厚い平地乾燥常緑林と平地乾燥落葉林の深度別土壌水分、土壌硬度の同時測定が本課題では不可欠であるため、できれば雨季と乾季の2回渡航してデータを蓄積し、解析を進めたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症拡大の影響により、調査地であるカンボジア王国への渡航が研究代表者・研究分担者ともにできず、また日本国内での旅費等の使用もなかったため、次年度使用額が生じた。次年度は、渡航回数を2回とし、雨季と乾季の調査・測定を実施する予定である。
|