近年、ゲノム上の任意の塩基配列を切断するDNA切断酵素を利用し、標的遺伝子に変異を誘導するゲノム編集技術が新しい育種法として広まりつつある。しかし、現在の技術ではDNA切断酵素遺伝子を植物ゲノム内へ一旦遺伝子組換えによって導入することが前提条件であり、導入された遺伝子の除去には交配によって遺伝分離させることが必要であることから、林木では実用化までに時間がかかる問題がある。そこで本研究では、植物に感染するウイルスをベクター(遺伝子の運搬体)として用い、植物体内でDNA切断酵素を発現させることで、遺伝子組換えを経ることなくゲノム編集する技術を開発することを目的とする。ウイルスベクターで発現させるDNA切断酵素のモデルとして特定の18塩基を認識するI-SceI遺伝子を用い、DNA切断の評価系としてI-SceI認識配列を挿入して不活化させた発光酵素・蛍光タンパク質の融合遺伝子をスギへ導入した。合計75系統の形質転換体の作出に成功し、いずれの系統も可視化マーカーである蛍光タンパク質の蛍光が確認され、蛍光強度により高発現の系統を選抜した。次に、スギ用にコドンを最適化したI-SceI 遺伝子を人工合成し、ウイルスベクターであるリンゴ小球形潜在ウイルス(ALSV-wt)へ挿入した組換えALSV(ALSV-I-SceI)を作製し、前述のスギ形質転換体へ接種後、発光強度について測定を行った。その結果、I-SceI遺伝子を挿入していない対照のALSV-wt接種の場合と比較して、ALSV-I-SceI接種の場合には発光量が5倍以上に上昇することが確認され、ウイルスベクターにより発現したDNA切断酵素遺伝子により宿主のDNAがゲノム編集されることが示唆された。
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