研究課題/領域番号 |
19K06156
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研究機関 | 国立研究開発法人森林研究・整備機構 |
研究代表者 |
高梨 聡 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (90423011)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 炭素動態 / 肥大成長 / 炭素貯留 / パルスラベリング |
研究実績の概要 |
樹木内部の炭素移動速度の変化を非破壊的に測定するために、京都大学桐生水文試験地において、樹木(ヒノキ)を対象に9月下旬より7日間隔で13CO2パルスラベリング実験を試みた。パルスラベリング実験では、ビニール製チャンバーを作製し、樹冠全体を覆い、そこに13CO2(99%)ガスを注入し、2時間前後光合成行わせることで、13Cにより標識した。光合成により取り込まれたパルスラベリング後の13Cは、主に篩液として樹冠部から幹に達し、呼吸作用により13CO2となるため、これをレーザー分光二酸化炭素安定同位体分析計で検出することにより、到達時間を算出することができる。また、この炭素到達時間を樹幹部からの距離で除することにより、移動速度を算出することができる。幹の複数個所に取り付けたチャンバーにより、吸収された13CO2が幹上部から順に放出される様子が観測され、上部であるほど早い移動速度が算出された。また、降雨後には流下速度が上昇する傾向がみられた。このパルスラベリングを複数回行うことにより、様々な環境条件における樹体内炭素移動速度の変化を知ることができると考えられる。しかしながら、幹下部ではその放出パターンがパルス状ではなく、比較的一様に放出されていた。これらのことから、樹木のスケールに対して、7日の間隔では短すぎて、前回の実験において貯留された炭素とその次の実験で吸収された炭素との分離が難しいと考えられた。この複数回にわたる実験により、樹木のサイズ、樹種、環境条件によって、樹体内炭素移動速度が刻々と変動することが明らかとなったため、ラベリングの間隔を実験結果より適切に判断し、自動的に行えるシステムを構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、前年度から行っている微気象・フラックスの連続観測を行いつつ、パルスラベリングを師液流速の遅いヒノキに適用し、13Cラベリングの頻度がその放出パターンに与える影響を検討することができた。また、遠隔地でも自動的にチャンバーの開閉および13CO2ガスの注入をコントロールするシステムを構築し、当初の計画通りに研究を進めた。
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今後の研究の推進方策 |
計画初年度から行っている、微気象・フラックスの連続観測を行いつつ、構築した自動ラベリングシステムにより、13Cラベリング実験を行う。微気象環境条件、樹木成長の連続観測結果、ラベリング実験結果を基に、樹体内炭素・水循環モデルを作成し、様々な樹木・環境変動下における詳細な樹体内炭素動態(移動速度・滞留時間)および水動態を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響により調査・学会への旅費が必要でなくなったため、残額が生じた。生じた残額は、リモートからでもデータ取得を行えるようなシステム構築のための費用とする計画である。
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