近年、堅果の豊凶が、10から数10年で大きく年代変化することが報告され始めた。地球温暖化による気温上昇などが一因とされているものの未だ確証は得られ ていない。また、樹木の更新や野生生物の動態にどのように波及するのかもよくわかっていない。そこで本研究では、(1)長期データを元に、堅果豊凶性の年 代変化を定量分析し、(2)「樹木は環境変動(特に気温上昇)に伴って資源配分様式を変化させる」という仮説を検証する。さらに、(3)樹木の更新へどのように波及するのか分析する。 最終年度は、(3)に取り組んだ。昨年度からデータ整備を進めてきた小川試験地(茨城県)のブナ科5種(ミズナラ、コナラ、クリ、ブナ、イヌブナ)の約30年間の堅果生産の年変動を分析した。その結果、特にミズナラ、コナラ、クリで、未熟堅果数が増えていることがわかった。雌花数が大きく増えるも成熟堅果に成長する前に脱落したことになる。成熟堅果数の年変動をウェーブレット分析で精査したところ、ミズナラでは基本的に2年周期が続いたが、他の4種では主に2-3年ないし3-4年だった豊凶周期が、観測後期ではみられなくなることが確認された。どの樹種も成熟堅果数については増減傾向はなかったが、虫害により健全堅果数が減少する傾向にあった。なお、虫害率の年変動パターンは、ブナ属では異なるがコナラ属ではよく似ており、属内での着果頻度や結実フェノロジー、加害昆虫相の相違が関係していると思われる。健全堅果の生産数と翌年の実生発生数との対応をみたところ、堅果数の年変動が大きく平均値の減少程度が緩やかだったミズナラは、発生数が増加傾向にあったが、他の4種では堅果数の年変動が小さくなるか平均値が大きく減少し、発生数は減った。このように樹種によって変化パターンとその帰結に相違があるものの、近年の豊凶変化は全体的に樹木更新に不利になると思われる。
|