「白色腐朽菌による芳香族化合物の資化性」について前年度においてTrametes versicolor ATCC42462株が、ベラトリルアルコール(VA)からLiP酸化により生じたムコン酸類縁体をそのエネルギー源としているという仮説が立てられたため、VAから生じるムコン酸類縁体の資化性について検証した。VAからムコン酸類縁体の調製について種々検討したが、当該化合物が得られなかったため、ムコン酸類縁体同様、VA酸化物として知られる2種のキノン型類縁体とベラトルアルデヒド、ベラトルム酸を単一炭素源として当該株を培養した。なお、キノン型類縁体については、それぞれ有機合成により調製した。その結果、VA添加条件においてのみ有意な生育が確認された。これにより、Trametes versicolorは、「VAから生じたムコン酸を資化している」ことを消去法的に証明した。 また、「白色腐朽菌によるVA生合成経路の解明」においては、窒素欠乏などにより刺激を受けるVA生合成系がフェニルアラニンより下流から開始するのか、より上流のシキミ酸経路から刺激を受けているのかを、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)前後の遺伝子発現量の比較により検証した。最初にPhanerochaete chrysosporiumのpalならびにadt(アロゲン酸デヒドラターゼ)遺伝子の探索を行い、それぞれ配列を同定した。次いで両遺伝子のプライマーを設計し、PCRにより選抜を行った。当該株のVA産生期をGC-MSにより同定した後、当該期間の発現量の比較を行った。アガロースゲルのバンドに基づく半定量的評価においては、pal ならびにadtはVA産生直前から共に発現量が上昇していることが観察された。このことから、白色腐朽菌のVA産生においてはシキミ酸経路、すなわち芳香環のde novo合成が刺激されていることが示唆された
|