研究課題/領域番号 |
19K06162
|
研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
関野 登 岩手大学, 農学部, 教授 (30171341)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 廃菌床 / 断熱性 / 熱伝導率 / 半炭化 / 質量減少率 |
研究実績の概要 |
シイタケ菌床栽培では収穫後の廃菌床の有効活用が課題である。木材チップが菌床の場合、廃菌床を乾燥すると腐朽チップと菌糸塊が一体化してレンガと同サイズのブロックが採取できる。本研究はこの点に着目し、断熱材などの材料利用の可能性を探る。具体的には、①気乾密度をパラメータとして熱伝導率や強度性能との関係を調べ、他材料から見た断熱性能や強度性能の位置づけを見出す、②断熱性の発現メカニズムを熱伝導モデルにより明らかにする、③半炭化処理による断熱性改善の可能性を探る、以上の3点を目的とした。 令和2年度は主に二つの調査研究を行った。一つは熱伝導率の測定であり、密度200 kg/m3程度のブロックでは、熱伝導率は同密度の木材よりも1割程度大きかった。一方、圧縮乾燥して得たブロックの熱伝導率は同密度の木材のそれと同等であったが、市販の軟質繊維板(IFB)と比べて1割程度大きかった。その要因として、①ブロック内の腐朽チップは完全な水平堆積ではなく、熱伝導率が相対的に大きい繊維方向の伝熱が関与する、②熱橋となる実質の熱伝導率が菌糸の影響を受けて木材実質のそれよりも高い、③IFBにはない粗空隙が多く、対流伝熱または菌糸経由の伝導伝熱が生じて粗空隙での伝熱が多くなっている、などが推測された。そして②に関しては、熱伝導モデルを適用して熱橋の熱伝導率を試算した。 もうひとつの実施内容は断熱性と強度に及ぼす半炭化処理の影響であり、廃菌床に適用するための基礎資料を得るため、木材素材(密度0.55g/cm3のベイマツ心材)を対象に調べた。その結果、処理で生じる質量減少率が20%程度に達すると約15%の断熱性向上(熱伝導率低下)となった一方で、圧縮強度やせん断強度は半減した。したがって、半炭化処理を廃菌床に適用する際は、想定する製品に要求される強度性能との関係を考慮する必要がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初設定した研究目的は次の3つである。①熱伝導率や機械的性質を調べ、他材料から見た断熱性能や強度性能の位置づけを見出す、②断熱性の発現メカニズムを熱伝導モデルにより明らかにする、③廃菌床を半炭化処理して断熱性改善の可能性を調べる。これに対し、初年度(R1)は廃菌床の何割程度が材料利用できるかという資源量に関する疑問が浮上し、栽培ハウスからの廃菌床回収の歩留まりと廃菌床乾燥後のブロック材料の採取歩留まりを調べ、材料利用可能な賦存量に関する基礎データを収集して当初計画を補強した。 研究目的①に対して、まず廃菌床の気乾密度の分布範囲を調べた結果、全体の約8割が密度200kg/m3以下であった。そこで、圧縮乾燥により密度範囲200~300 kg/m3のブロックを追加し、密度範囲150~300 kg/m3における機械的性質(剥離強度・圧縮強度性能)および熱伝導率を調べ、廃菌床と構造が類似する軟質繊維板(T級IFB:密度約250 kg/m3)との比較により、廃菌床の強度性能および断熱性能の位置づけを明確にした。また、研究目的②に対しては、空隙と実質の直列・並列モデルを廃菌床の粉体マットに適用し、廃菌床実質の熱伝導率を試算した結果、木材実質の約1.6倍となった。ただし、この試算結果は熱伝導率の異方性が無視された値であるため、今後は異方度の決定が必要となる。研究目的③に対しては、廃菌床に適用するための基礎資料を得るため、木材素材を半炭化処理し、質量減少率が強度および熱伝導率に及ぼす影響を明らかにした。以上のように設定した研究目的に対して、概ね順調に種々の知見が得られている。
|
今後の研究の推進方策 |
研究目的①(熱伝導率・機械的性質)に対しては、圧縮の程度をこれまで以上に高めた圧縮乾燥を行って、密度範囲300~450 kg/m3のブロックを製造し、機械的性質(剥離強度・圧縮強度性能)および熱伝導率を調べる。これにより、広範囲な密度(150~450 kg/m3)における廃菌床ブロックの機械的性質(剥離強度・圧縮強度性能)の変化および熱伝導率の変化が把握でき、強度性能と断熱性能を両立させる適切な密度設計データが整備できる。なお、当初計画では廃菌床内部の材料利用が前提で、表皮は除去すなわち廃棄(燃料利用)という構想であった。しかし、表皮ごと圧縮して乾燥すると、凹凸面の表皮がある程度平滑となり、硬質の表皮を活かした材料利用の可能性や表皮除去プロセスの省略も見えてきた。そこで、科研申請時には発想できなかった表皮付き圧縮ブロックに対して、機械的性質や断熱性を調べる予定である。 研究目的②(断熱性発現メカニズム)に対しては、令和2年度は廃菌床および原料木材の粉末マットの熱伝導率を測定し、このマットに空隙と実質の2要素からなる並列・直列モデルを適用して実質部の熱伝導率を推定した。ただし、得られた熱伝導率は異方性が無視された値(繊維方向とその直交方向の平均値)であり、その異方度を知る必要がある。そこで今後は、ある程度高密度の廃菌床ブロックに対して同様の熱伝導モデルを適用し、異方度をパラメータとしてブロック内空隙の熱伝導率を推定する。そして、空隙の熱伝導率が静止空気と同等となることを根拠に、適切な異方度を決定する。 研究目的③(半炭化処理)に対しては、令和2年度で得た木材素材における質量減少率と熱伝導率の関係を参考に、ある程度高密度化した廃菌床に対して半炭化処理を行い、機械的性質の変化および熱伝導率の変化を調べる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた国際学会での発表がコロナ過で大会中止となり、旅費の予算執行がなくなったことが最大の理由である。次年度における国際学会参加旅費の使用計画は、コロナ過のため現在で未定である。繰り越した使用額の一部は論文投稿費用に充てることを計画している。
|