研究課題/領域番号 |
19K06163
|
研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
小藤田 久義 岩手大学, 農学部, 教授 (40270798)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | スギ / テルペン / 認知症 / アルツハイマー |
研究実績の概要 |
スギ材には抗酸化活性等の様々な生理活性を持つジテルペン類が多く含まれていることが知られており、いくつかの主要成分には顕著な抗酸化作用が見出されている。抗酸化剤が生体に与える影響には抗アルツハイマー病(AD)作用があり、ADの原因となるアミロイドベータペプチド(Aβ)由来の酸化ストレスを抑制することによって、その神経毒性を緩和できると推定されている。我々はこれまでに線虫(Caenorhabditis elegans)を用いたバイオアッセイにより、スギの抗酸化性ジテルペンであるフェルギノールがAβ毒性緩和作用を有することを見出し、その活性がポジティブコントロールであるギンコライド(イチョウ葉抽出物)と同程度であることを見出している。本研究では、フェルギノールと類似の化学構造を持つ数種のスギジテルペンを用いて抗アルツハイマー病(AD)作用の評価を行った。 フェルギノールおよびデヒドロフェルギノールを試験プレートに添加して抗AD活性試験を行ったところ、いずれも同程度に有意な効果が認められた。一方、サンダラコピマリナール、サンダラコピマリノール、アビエタジエン、アビエタトリエン、フィロクラデンを添加したプレートでは有意な効果は認められなかった。 C.elegans CL4176系統には温度依存性のAβ合成遺伝子が組み込まれており、25℃では筋組織特異的にAβが発現し麻痺状態となる。このとき特定の抗酸化物質を投与することにより、Aβ誘発性の酸化ストレスが緩和され、麻痺の発生頻度が減少することが知られている。フェルギノールおよびデヒドロフェルギノールはスギに含まれる代表的な抗酸化型ジテルペンであること、また、類似の構造を有する他の非抗酸化型ジテルペンでは有意な効果が見られなかったことから、線虫の体内では前2者のみが抗酸化作用を発現したことにより抗Aβ効果がもたらされたものと推測された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に予定していた実験項目であるスギジテルペン類の抗アルツハイマー活性の検証に関して、スギ材に存在するフェルギノールと類似構造を持つ多種の機能性ジテルペン類を単離精製し、線虫(Caenorhabditis elegans CL4176)を用いたバイオアッセイによる評価が実施された。各実験試料のAβ毒性緩和活性を、先行研究において抗アルツハイマー活性物質であることが確認されているフェルギノールと比較したところ、デヒドロフェルギノールのみが同程度の抗アルツハイマー活性を有すること、両化合物間に共通する化学的な傾向として顕著な抗酸化活性を有することが明らかとなった。このことは共通構造であるイソプロピルフェノール部位に由来するラジカル捕捉作用が抗アルツハイマー活性を発現するための鍵となっていることを示唆しており、当初の目的である高い活性を有する化合物間に共通する分子構造および化学的な傾向と活性の相関関係についてある程度明らかにできたものと思われる。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでにAβ毒性緩和活性を有する天然有機化合物として、イチョウ葉抽出成分であるギンコライドAのほか、カルノシン酸、ロスマリン酸、モリン等が報告されているが、いずれも本研究とは手法の異なる生物試験法により機能評価がなされている。これらを本研究と同じ評価系で比較した場合の活性の違いはどの程度なのか、また、各化合物の抗酸化活性とAβ毒性緩和活性には相関があるのかについて検討・評価する。 また、スギジテルペンのAβ毒性緩和作用は抗酸化活性によるものと推定されているが、実証がなされていないため、Aβ毒性発現にともなう生体内での酸化ストレスがスギジテルペンによって緩和されるのか、また、Aβの重合反応を抑制することができるのかについて検討・評価する。具体的には、Aβ凝集の抑制作用を検証するために、① Aβ凝集の蛍光マーカーであるチオフラビン(ThT)を添加した線虫における病態の顕微鏡観察、② ThTアッセイによるAβ凝集抑制作用の定量的評価を行う。次いで、酸化ストレスの抑制作用を検証するために、①生体内活性酸素種の蛍光マーカーであるジクロロフロレセイン-ジアセテート(DCF-DA)を添加した線虫における病態の顕微鏡観察、②DCF-DAアッセイによる活性酸素除去作用の定量的評価について検討し、スギジテルペンによるAβ毒性緩和作用機構の検証を行う。
|