スギ材には抗酸化活性等の様々な生理活性を持つジテルペン類が多く含まれていることが知られており、いくつかの主要成分には顕著な抗酸化作用が見出されている。抗酸化剤が生体に与える影響には抗アルツハイマー病(AD)作用があり、ADの原因となるアミロイドベータペプチド(Aβ)由来の酸化ストレスを抑制することによって、その神経毒性を緩和できると推定されている。我々はこれまでに線虫(Caenorhabditis elegans)を用いたバイオアッセイにより、スギの抗酸化性ジテルペンであるフェルギノールがAβ毒性緩和作用を有することを見出した。フェルギノールはスギに含まれる代表的な抗酸化型ジテルペンであることから、線虫の体内でフェルギノールが抗酸化作用を発現したことにより抗Aβ効果がもたらされたものと推測されている。 昨年度までに、フェルギノールとポジィティブコントロール4種(ギンコライドA、カルノシン酸、ロスマリン酸、モリン)には同等のAβ毒性緩和作用が認められたことから、フェルギノールはこれまでに報告されている他の天然系活性物質と同等の抗アルツハイマー病作用を有することが推定された。本年度は、フェルギノールが有するAβ毒性緩和活性の作用機構を解明するために、フェルギノールによるAβペプチドに対する凝集抑制作用および線虫体内における酸化ストレスの抑制作用について検討した。Aβ凝集抑制作用については、in vitro条件での凝集状態をチオフラビンアッセイによりモニターしたところ、フェルギノールにはモリンと同等の活性が認められた。また、酸化ストレス抑制作用についてはDCF-DAを用いた蛍光顕微鏡観察により、同じくモリンと同等の活性が認められ、フェルギノールはAβ凝集ステージおよび酸化ストレス亢進ステージの両方で毒性緩和作用を示すことが明らかとなった。
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