研究実績の概要 |
これまでのマクロファージ様細胞(RAW264.7)を用いた細胞試験から、β-1,6-グルカンはβ-1,3-グルカンよりも高い免疫賦活機能を持つ可能性が示唆された。実際にイワタケ熱水抽出物(主にβ-1,6グルカンを含む)が海藻由来のラミナリン(β-1,3グルカンを含む)よりも高いTNFαの発現を示した。しかしながら、イワタケ由来のβ-1,6-グルカンは水への溶解性が低くゲル化しやすい傾向が認められ、カラムでの分離や各種試験に用いることも困難であった。そこで、担子菌(Coprinopsis cinerea)由来のβ-1,6-グルカナーゼを、麹菌を用いて異種発現することで組み換え酵素を取得し、本酵素でイワタケ熱水抽出物を処理することで低分子化することにした。本酵素は、β-1,6-グルカンに高い基質特異性をもち、高分子を分解する一方で、オリゴ糖への活性は低いという特徴をもつ。これらのことから、イワタケ由来β-1,6-グルカンを基質に用いて酵素分解させることで、各重合度のβ-1,6-グルカンオリゴ糖を調製することができた。酵素分解生成物をサイズ排除クロマトグラフィーを用いて分子量ごとに分画した。これらの糖サンプルにおける免疫賦活機能を評価したところ、分離したオリゴ糖が、酵素分解前の多糖よりも高い活性を示した。質量分析を行ったところ、活性の高いフラクションには5糖、6糖、7糖が主に含まれることが明らかになった。また、アルカリ処理による不純物や官能基の除去を行ったところ、免疫賦活性が低下した。これは脱アセチル化により水素結合が強化し、溶解性が低下した影響であると考えられた。以上のことから、免疫賦活機能には、β-1,6-グルカンオリゴ糖の重合度、純度、溶解性が重要であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
イワタケ由来のβ-1,6-グルカンは水への溶解性が低くゲル化しやすい傾向が認められ、カラムでの分離や各種試験に用いることも困難であったこともあり、材料調製に時間がかかっていたが、β-1,6-グルカナーゼを取得し、本酵素でイワタケ熱水抽出物を処理することで低分子化することにした。また、低分子化物も免疫賦活機能を示すことが明らかになり良好な結果が得られている。また、β-1,6-グルカン受容体候補遺伝子の特定のため、β-1,6-グルカンとβ-1,3-グルカンをそれぞれRAW264.7細胞試験に供し、RNAシークエンスを行っている。すでにサンプル調製とシークエンスは終了しており、現在データ解析を進めているため、概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
β-1,6-グルカンとβ-1,3-グルカンをそれぞれRAW264.7細胞試験に供しRNAシークエンスを行い、発現する遺伝子群を比較する。β-1,6-グルカン受容体候補遺伝子およびβ-1,6-グルカンによって特異的に発現量が上昇する遺伝子群を明らかにする。すでにサンプル調製とシークエンスは終了しており、現在データ解析を進めている。さらに、免疫賦活機能を示すβ-1,6-グルカンオリゴ糖の最小単位についても明らかにし、β-1,6-グルカン受容体との結合について考察する。
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