研究課題/領域番号 |
19K06167
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
堀川 祥生 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (90637711)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 赤外分光法 / ヘミセルロース / グルコマンナン / 細胞壁 |
研究実績の概要 |
ヘミセルロースは木質バイオマスの主要成分であり、セルロースとリグニン間の相互作用を高めて木材の物理的特性に大きく寄与しているだけでなく、糖化といったバイオマス変換工程においても重要な因子となる。針葉樹材のヘミセルロースはキシランと同様にグルマンナンが主たる成分であり、全ヘミセルロース量の約2/3を占めている。通常、グルコマンナンの含有量は化学分析によって評価するのだが、試料調製には時間や労力を消耗することに加え、分析のために高価な装置と長い測定時間を要する。以上の背景から、本研究では赤外分光分析による簡便且つ迅速な評価法の確立を目的とした。本年度はこれまでの成果である赤外吸収スペクトルに観察されたマンナンに特異的な吸収帯に注目し、昨年度に構築した検量モデルの評価に取り組んだ。様々な実バイオマス試料である針葉樹材に加え、化学処理した木材からATR(Attenuated Total Reflectance)アクセサリーを用いてスペクトルを取得した。一方で、リファレンスデータを収集するため、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて糖分析を実施した。得られたマンノース量を赤外吸収スペクトルと比較したところ高い精度で予測することが可能であった。次に組織・細胞レベルといった微小領域での分析を可能とするため顕微システムを用いた検量モデルの構築に取り組んだ。グルコマンナンおよびセルロースのモデル試料を適切な割合で混合し、顕微システムを用いてスペクトルを取得した。昨年度に見出したマンノース残基に特異的な吸収に基づいて検量モデルを構築したところ、ある一定の精度を保った検量モデルの構築に成功した。したがって、バイオマス試料の微小領域においてもマンノース含有量を予測できる可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年に構築した検量モデルを検証するため、スギ、アカマツに加え、コウヤマキやカラマツなど様々な針葉樹材を評価した。また水酸化ナトリウムで煮沸した針葉樹材など化学処理を施した試料も試験した。ATRアクセサリーを用いてこれらの試料からスペクトルを取得した。同じバイオマス試料からリファレンスデータを得るため、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて糖分析を実施し、マンノース量を評価した。構築した検量モデルから予測したマンノース量はHPLCから見積もったマンノース量とほぼ同じ値を示したことから、樹種に関係なく高い精度で予測できることが示された。また微小試料のグルコマンナン解析法の確立を目指すため、顕微システムを導入した。グルコマンナンはモデル試料としてプロポールを、セルロースについてはスギから調製したナノファイバーを用いた。これらを適切な割合で混合し、顕微システムを用いてスペクトルを取得した。化学分析から見積もったマンノース値と相関させて検量モデルを構築したところ、ある一定以上の相関性を有していた。本成果は微小領域における簡便・迅速なヘミセルロース評価法として期待できる。次に免疫標識法によるグルコマンナンの局在データと相関させるため、スギならびにアカマツからブロックを取り出し、切片を作成した。それを顕微赤外分光分析装置に供しスペクトルを収集した。以上は2021年度に実施予定である研究の基盤となる成果であり、研究の進捗状況としておおむね順調に進展している、と言える。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き顕微赤外分光法によって木質バイオマスの組織・細胞といった微小領域からスペクトルを取得するとともにグルコマンナンの局在データを取得する。非特異的な吸着を抑制するためのブロッキング処理を行った後、一次抗体としてグルコマンナンを認識するモノクローナル抗体を作用させる。これに蛍光標識した二次抗体を反応させプレパラートを作成する。蛍光顕微鏡や共焦点レーザー顕微鏡観察を行い、得られた画像データを数値化し、グルコマンナンデータを集積する。これとスペクトルから予測したマンノースデータを相関させ、画像からマンノース量を評価する方法を確立する。 また酵素分解阻害と細胞壁成分の関係、とりわけグルコマンナンが糖化に及ぼす影響について明らかにする。未処理ならびに前処理した木質バイオマスを糸状菌Trichoderma reeseiから抽出した市販セルラーゼで糖化処理する。その後、得られた濾液から糖化率を算出する。同時に分解残差から顕微赤外分光法によってスペクトルを取得し、本研究で構築した検量モデルを用いてグルコマンナン量を予測する。最終糖化率や初期反応速度といった糖化データとグルコマンナン量の関係から糖化阻害要因を解明する。 糖化残渣に関しては化学分析によって含有マンノース量を見積もる。同時にATR法からもスペクトルを取得する。検量モデルを用いて予測した値との相関性を評価するとともに、その結果をフィードバックすることでより精度の高いモデルの構築を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、木質バイオマスの組織・細胞におけるグルコマンナンの局在データを収集する予定であったが、顕微システムを用いたスペクトルの収集に時間を要したため、免疫標識実験を翌年に繰り越し、その結果、次年度使用額が生じた。したがって2021年度に抗原抗体反応や蛍光顕微鏡・共焦点レーザー顕微鏡観察に必要な消耗品を購入する予定である。
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