細胞壁主要成分のひとつであるリグニンは、組織・細胞の顕微スケールにおいても不均一な構造と分布を有しており、その生合成機構が緻密に制御されている可能性が示唆されている。しかしながら現時点においてリグニンの構造情報を最も網羅的に解析可能な13C-NMR(核磁気共鳴)法は、必要な試料量がガスクロマトグラフィー等の分解分析法と比べて圧倒的に多く、微小領域の試料のみを対象としてNMR分析を行うのは非常に困難である。ここでNMR分析感度のボトルネックは、13Cの天然存在比が1.08%と低いことである。そこで本研究では、独自に開発した環境制御型グロースチャンバー(基盤研究(C)15K07510)を用いて13CO2を投与しながら植物を育成し、高13C試料を得る。さらに特定部位の個別収集を行い、NMR法を用いた詳細な構造解析を行う。植物体内における顕微スケールのリグニン構造に関する知見を集積し、植物の精緻なリグニン生合成制御の顕微的実態に迫る。 最終年度では計画通りに、第2年度までに育成した特殊試料からの分取サンプルについて、超高感度定量構造解析を実施した。液体・固体の定量NMRデータを組み合わせ、さらに従来法との比較を行った。結果より、特に針葉樹圧縮木材に特有の組織におけるリグニン化学構造に関して、新たな知見が得られた。
|