研究課題/領域番号 |
19K06172
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
雉子谷 佳男 宮崎大学, 農学部, 教授 (10295199)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 引張あて材 / ACC / IAA |
研究実績の概要 |
今年度の研究は、外力負荷による屈曲試験および重力方向のみを変化させる傾斜試験によってあて材形成を誘導し、それぞれについて木部形成および内生植物ホルモンの定量を行なった。その際に、1-アミノシクロプロパン-1-カルボン酸(ACC、エチレン前駆物質)の定量方法を改善した。さらに、オーキシン(IAA)、NPA(IAA移動阻害剤)およびACCの投与実験を実施し、植物ホルモンとあて材形成との関係を調べた。 屈曲・傾斜上下でIAAの偏差分布がともに確認され、屈曲・傾斜上側(TW)の形成層帯におけるIAA量は、屈曲・傾斜上側(OW)に比べて多いことがわかった。屈曲・傾斜試験の両方でIAAの偏差分布が生じ、屈曲試験において形成層帯のIAAの局在量の変化が確認されたことから、重力刺激への応答として屈曲・傾斜上下の形成層帯でIAAの極性輸送が変化したことが推測された。 ACCのLC/MS分析では、抽出成分が多い苗木試料で分析精度に問題が生じる場合があった。そこで、サンプル精製方法やネガティブイオン化モードを採用することで分析精度を向上することができた。新たに開発した方法で分析したところ、ACCは屈曲上側(TW)に比べて屈曲下側(OW)で多い結果が得られ、既往の研究と同じ結果が得られ、ACC濃度の上昇が直接、あて材形成を誘導するとは考え難いことが判明した。 投与試験では、ACC投与によって師部組織の形成促進は認められたものの、あて材形成や偏差成長は認められなかった。NPAおよびIAA投与によって偏差成長が認められた。興味深いことにNPAやIAAを投与した樹幹反対側(OWを想定)で成長が抑制され、この傾向はNPAでより顕著であった。しかし、いずれの処理でもあて材は形成されていなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
既往の研究で、ACCとあて材形成について報告された矛盾点について、新たな知見が蓄積されつつある。数多くの研究が実施されているにも関わらず、あて材形成の核心は不明のままであった。各種処理をおこなった試験材の植物ホルモンを定量することで、あて材形成の誘導は、IAAであるのかACCおよびエチレンであるのか、両者の相互作用であるのかを説明できる知見が得られつつある。すなわち、IAAの偏差分布は、あて材形成に不可欠であること、樹幹片側にIAAやNPAを投与すると樹幹反対側の成長抑制が見られること、ACC単独投与であて材形成は誘導されないことなどである。したがって、「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
H31年度は、主にスダジイおよびシラカシについて、あて材形成のメカニズムを解明する研究に取り組んだ。令和2年度は、前年度で解析が終わっていない試料の分析を実施するとともに、前年度に得られた知見に基づき、スダジイについてIAAとACCの相互作用およびそれぞれの役割に焦点をあてた研究を実施する。さらに、あて材形成において、G層を形成しないユリノキを含めて、スダジイやシラカシ以外の樹種を対象に、幅広い研究を進める。
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